食道楽・冬の巻
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食道楽・冬の巻(くいどうらく・ふゆのまき)は、明治36年(1903年)1月~12月まで報知新聞に連載された村井弦斎の小説『食道楽』の連載後、「春の巻」「夏の巻」「秋の巻」「冬の巻」として出版された中の一つである。
大隈伯爵家温室内の食卓
○大隈伯爵家温室内の食卓(口絵参照)
我邦に来遊する外国の貴紳が日本一の御馳走と称し帰国後第一の土産話となすは東京牛込早稲田なる大隈伯爵家温室内の食卓にて巻頭に掲ぐるは画伯水野年方氏が丹青を凝して描写せし所なり。
この粧飾的温室はいわゆるコンサーバトリーにして、東西七間南北四間、東西は八角形をなし、シャム産のチーク材を撰び、梁部は錬鉄製粧飾金具を用ゆ。 中間支柱なく上部は一尺二寸間ごとに椽を置き一面に玻璃を以って覆おおわれ、下部は粧飾用敷煉瓦がを敷詰め、通気管は上部突出部および中間側窓と、下方腰煉瓦の場所に設けらる。 棚下の発温鉄管は室内を匝環し、冬季といえども昼間七十五度夜間五十五度内外の温度を保つ。 周囲における二層の花壇には、絶えず熱帯産の観賞植物を陳列し、クロートン(布哇産大戟科植物譲葉の類)、ドラセナー(台湾およびヒリッピン産千年木の類)、サンセビラ(台湾産虎尾蘭とらのおらんの類)、パンダヌス(小笠原島辺の章魚の木き)その他椰子類等はその主なるものにて、これを点綴せる各種の珍花名木は常に妍を競い美を闘わし、一度凋落すれば他花に換え、四時の美観断ゆる事なし。
この爽麗なる温室内に食卓を開きて伯爵家特有の嘉肴珍味を饗す。 この中に入る者はあたかも天界にある心地して忽たちまち人間塵俗の気を忘る。 彩花清香眉目に映じ珍膳瑶盤口舌を悦よろこばす。 主客談笑の間、和気陶然として逸興更に竭くる事なけん。
目次
- 第二百七十六 貴夫人の学問
- 第二百七十七 呼出し状
- 第二百七十八 送別の料理
- 第二百七十九 鯛汁
- 第二百八十 滋養スープ
- 第二百八十一 病人の食物
- 第二百八十二 米料理
- 第二百八十三 葡萄豆
- 第二百八十四 栗料理
- 第二百八十五 柿料理
- 第二百八十六 鯖の船場煮
- 第二百八十七 季節の食物
- 第二百八十八 牛の脳味噌
- 第二百八十九 牛の臓物
- 第二百九十 見世物の種
- 第二百九十一 娘の理想
- 第二百九十二 世の風波
- 第二百九十三 身の上話
- 第二百九十四 大打撃
- 第二百九十五 小言の愉快
- 第二百九十六 松茸売
- 第二百九十七 松茸山
- 第二百九十八 菌の毒
- 第二百九十九 松茸料理
- 第三百 薩摩芋
- 第三百一 匙の分量
- 第三百二 詰換物
- 第三百三 商人の嘘
- 第三百四 牛の図
- 第三百五 肉の区別
- 第三百六 色々の牛
- 第三百七 活きた学問
- 第三百八 米の説明
- 第三百九 パン種
- 第三百十 食パンの製法
- 第三百十一 小麦の粉
- 第三百十二 有毒時期
- 第三百十三 肉の毒質
- 第三百十四 鮮肉の毒
- 第三百十五 酒の酔
- 第三百十六 新蕎麦
- 第三百十七 パイの皮
- 第三百十八 林檎のパイ
- 第三百十九 ターツ菓子
- 第三百二十 パイの別法
- 第三百二十一 ドロップス
- 第三百二十二 母の不足
- 第三百二十三 経世論
- 第三百二十四 小児の不幸
- 第三百二十五 人の言葉
- 第三百二十六 育児法
- 第三百二十七 三十歳の小児
- 第三百二十八 門前の人
- 第三百二十九 花飾り
- 第三百三十 心の趣味
- 第三百三十一 白い菓子
- 第三百三十二 家庭の養鶏
- 第三百三十三 鶏小屋
- 第三百三十四 鶏の餌
- 第三百三十五 鶏の病気
- 第三百三十六 鶏の割方
- 第三百三十七 五つの肉
- 第三百三十八 切売の肉
- 第三百三十九 危険な肉
- 第三百四十 鳥の米料理
- 第三百四十一 鳥の食べ頃
- 第三百四十二 小鳥料理
- 第三百四十三 猪料理
- 第三百四十四 兎のシチュー
- 第三百四十五 手軽料理
- 第三百四十六 雉のロース
- 第三百四十七 鴨のロース
- 第三百四十八 食医
- 第三百四十九 料理入費
- 第三百五十 骨の髄
- 第三百五十一 牛肉の食頃
- 第三百五十二 豚と犢
- 第三百五十三 ヒレの焼方
- 第三百五十四 牛乳の良否
- 第三百五十五 牛乳の相場
- 第三百五十六 琴一曲
- 第三百五十七 程と加減
- 第三百五十八 心の愉快
- 第三百五十九 我が覚悟
- 第三百六十 新結納
附録
病人の食物調理法
戦地の食物衛生
- 第一 病気の敵
- 第二 飲用水
- 第三 食物
- 第四 食物の種類
- 第五 酒
- 第六 応急の手当
- 第七 寝冷ねびえの害