🍅 最古の絵
我が国におけるトマトの歴史としては、江戸時代の寛文年間に長崎へ伝来したのが始まりとされる。
日本でトマトが登場する最も古い絵は、江戸幕府(当時:徳川四代将軍・家綱)の御用絵師・狩野探幽(かのう たんゆう)により1668年(寛文8年)に描かれた『草花写生図巻』春・夏・秋(各1巻)、雑(2巻)である。
その中で「唐なすび」という名称で描かれている。
作中には「木の長さは約120センチくらいで、ツルはない。月徳(人物)の庭の唐なすびというものである。寛文8年7月12日」という旨の内容が記されている。
木の長サ四尺斗、つるハ無之候、立木也
寛文八七月十二日、庭了月徳与来、唐なすびと言もの也
『草花写生図巻』狩野探幽・筆
当時のトマトは、青臭さと血に似た赤い色が敬遠され、食用ではなく、もっぱら観賞用であった。
描かれているトマトと同タイプのものはカゴメ株式会社の工場見学へ行くと見ることができる。
そこでも、観賞用トマト「カボチャ形トマト」として紹介されている。
「カボチャのようにしわが多く、上から押しつぶしたような、扁平なトマトです。日本で最初のトマトの絵には、これに似た形の果実が描かれています。」と説明されている。
一般的に国内で流通しているトマトの中で、しわが多いタイプの品種といえば、ファーストトマトが挙げられるが、それとは形状が異なる。
しかし、この「カボチャ形トマト」は海外の市場では多く見られ、食用として珍しくない。
🍅 最古の文献
日本でトマトが登場する最も古い文献は、江戸時代の本草学者・儒学者である貝原 益軒(かいばら えきけん)により1709年(宝永7年)に刊行された『大和本草』全21巻である。
その巻之九 草之五・雑草の中で「唐ガキ」という名称で紹介されている。
『唐柿は、他に珊瑚ナスビという俗名がある。葉はヨモギに似て大きく、ナンテンやスイカの葉に似ている。どの葉っぱも大小向かい合い、小さい部分は左右対称にくっついている。実はホオズキよりも大きく、実を包んでいるものはない。熟すと赤く、イヌホオズキのようである。稲若水(とうじやくすい*本草学者)いわく天ナスビだという。ロウヤ柿も天ナスビといわれるが、それとは異なる。』という内容が記されている。
唐ガキ
又珊瑚茄ト云俗名ナリ 葉は艾葉ニ似テ大ナリ 又南天燭西瓜ノ葉に似タリ 毎葉小片兩々相對シテ大小相挾メリ 實ハホウツキヨリ大ニシテ殻苞ナシ 熟スレハ赤シ 其廾子ハ龍葵ノ如シ 稲若水曰天茄子ナリ 老鴉眼睛草ヲモ天茄ト云ソレニハ非ズ
『大和本草』原文
この『大和本草』に登場する「唐ガキ」は、1668年(寛文8年)狩野探幽が『草花写生図巻』で描いた「カボチャ形トマト」ではなく、現代でいうミニトマトのようなものであったことが文中から推測できる。
珊瑚なすびの珊瑚とは宝石サンゴの一つで装飾品として加工されていた赤珊瑚(アカサンゴ)の色だと思われる。
この赤珊瑚を加工した品の中に球状の珊瑚玉というものがあるが、加工部分によってはロウヤガキのような長球状のものもある。
だが、装飾品は赤珊瑚の原木を削り出して研磨加工するものであり、至って大型のものはない。
また、使用される部分によっては全体が真紅や朱もあればオレンジがかったものもある。
そして、イヌホウズキやロウヤガキも小型の実であり、現在も観賞用でそれによく似たナス科ナス属の植物でタマサンゴ(玉珊瑚)というものがある。
食用トマトの生みの親ともいえるメキシコでは、ナス科ホオズキ属トマティーヨ(和名:オオブドウホオズキ)は「緑のトマト」と称され、伝統的なメキシコ料理において不可欠な食材である。
近年、日本でも生産量は少ないがフルーツトマトのように糖度改良などをした食用ホオズキが栽培され「ストロベリートマト」「ほおずきトマト」など様々なブランド名で出荷されている。
このメキシコのトマティーヨと日本の食用ホウズキは、瓜と果物ぐらい味わいの趣旨や方向性が別といってよい。
しかし、トマトとホオズキが似ている点を文献に残した江戸時代の本草学者・貝原益軒は間違ってはいなかったのである。
🍅 最古のレシピ
日本でトマトが登場する最も古いレシピは、仮名垣 魯文(かながき ろぶん)が1872年(明治5年)に執筆した『西洋料理通』である。 横浜に居留していたイギリス人が日本の傭人(雑事を担当する者)に料理を命ずる際の手控え帳を魯文が手に入れ編纂し、挿絵は幕末から明治にかけて活躍した天才絵師、河鍋 暁斎(かわなべ きょうさい)が手掛けた。 その中で『スチユードトマース』という調理名で紹介されている。
🍅 料理
世界には様々な国々の様々なトマト料理が存在する。
日本におけるトマト料理といえば、主に我が国に定着し認知度を得た海外料理や洋食をイメージするのが一般的ともいえる。
だが、もぎたてのトマトをその場でかぶりついたり、一般的に例えるなら冷やしトマトの様な、素直に素材そのものや情緒を味わう“極み„ともいうべき食し方も日本人としては挙げざるおえないだろう。
近年はそれを別の形で昇華するが如く、和食の食材としてスマートに取り入れ、それ相応に和風に調理される食材になってきている。
炊飯器に、米(2合)、しょうゆ、みりん、酒(各大さじ1)、塩(ひとつまみ)、トマト(1個)、生姜千切り( 適量)、塩昆布(適量)を上に散らして炊飯し、炊きあがったら適度に混ぜ合わせる。
※トマトは湯引きして皮をむき、丸のままでも、皮付きで適度な大きさにカットして投入してもよい。
あくまで和風、シンプルな材料と調理法、塩昆布がアクセントになっている。
🍅トマトの日
トマトの栄養価値や美味しさをアピールし、トマトを使った料理の普及をはかり、人々の健康増進に貢献することを目的として、2005年に一般社団法人全国トマト工業会が制定した。
10月は食生活改善普及月間であり、また「体育の日」もあり、健康への関心が高まる月で、その中でも、「ト(10)マト(10)」の語呂合わせから10月10日になった。
🍅 トマトのことわざ
『トマトが赤くなると、医者が青くなる』
イタリアや欧州のことわざとして取り上げられることが多いが、それが実在する根拠は見つかっていない。
「柿が赤くなると、医者が青くなる」が基になっている可能性も考えられる。
しかし、トマト自体が健康や生活習慣病などの予防に繋がる食品であることは事実であり、ことわざの派生が不明であったとしても、的を得たものになっていることに違いはない。