青トマト
青トマト(Green Tomato)とは、熟していない緑色のトマトのことで、日本では「青トマト」、海外では「グリーントマト」と呼ばれます。
実際には、それとは別で品種的に成熟段階に達しても緑色のままの古来種のトマトもありますが、通常は未熟なトマトを指し、本項も「未熟な青トマト」について記述します。
青トマトの時期
本来、多くの場合は生育期間中に熟しきれなかったトマトです。そのため、夏の終わりから秋の初めにかけてよく見られました。気温が下がり、トマトの実が熟さなくなると青トマトの季節です。しかし、現在では通年栽培が可能になっており、季節に関係なく意図的な収穫は可能になりました。ただ、消費者のほとんどが青トマトの用途を知らず、未だに毒性への疑念も迷信の如く少なからず根づいています。そして、その全体が熟したトマトを購入し、栽培農家も熟したトマトを栽培するのが基本的な目的となっているため、日本国内では流通が限られています。
追熟法
通常のトマトは、収穫からその流通経路をたどり、消費者に行き渡るまでの時間が計算され、それに合わせて完熟する前に収穫されます。
青トマトも例外ではなく、熟させることは可能です。少なくとも寒くない場所に置いておく必要があります。また、リンゴや熟したバナナなど、他の果物と一緒に紙袋に入れておくと、エチレンガスが発生して熟すのが早くなります。
追熟遅延法
青トマトをよく食べる地域では、その季節になると青トマトを食べる目的のために緑の状態を保つようにしました。
ジャガイモと同じで低温で光の当たらない場所に保管することで、できるかぎり青トマト料理を楽しみ、他は緑の状態でピクルスなどの保存食にしました。
毒性神話
トマトは、アステカ帝国の時代には、既に野生種から食用として様々な色や形のトマトが栽培化されていました。 現地では当たり前に食用とされていたことは、スペイン人の宣教師であるベルナルディーノ・デ・サアグンなどによって記録されています。そして新世界からヨーロッパへ持ち込まれたトマトでしたが、トマトの歴史を見れば明らかなように、完熟したトマトでさえ、有毒な果物という迷信から解き放たれるまでに相当の年月を要しました。
ソラニン
一般的なトマトの毒性物質として認識されている一つはソラニンです。ソラニンは緑色になったジャガイモに含まれる有毒なアルカロイドのうちの1つです。さらに、「ソラニンを大量に摂取すると、動物は死に、人間は吐き気、幻覚、死に至る」というような認識になっている。しかし、医学や獣医学の文献には、トマトの毒性を示す証拠はほとんど見当たらない。家畜の中毒に関するいくつかの逸話とは対照的に、1996年にイスラエルで行われた対照研究では、牛がトマトの蔓を42日間食べても影響はありませんでした。 トマトの毒性をソラニンのせいにするのは化学的にも失策であるとして、20年間にわたってジャガイモとトマトのアルカロイドを研究してきたアメリカ合衆国農務省(USDA)のメンデル・フリードマン博士は、「ソラニンはジャガイモのアルカロイドである」と付け加えました。
トマチン
もう一つは比較的に知られるようになったトマチンです。しかし、これも一般的に毒性物質として認識されています。 青トマトの果実には、かなりの量のトマチンが含まれていますが、海外では昔から揚げたり漬けたりして食べられてきました。 このような結果から、トマチンは比較的良性のアルカロイドである可能性が示唆されました。
毒性から薬効性へ
2000年、フリードマン博士らの報告によると、実験動物がトマチンを摂取した場合、基本的にすべてのトマチンは吸収されずに通過する事と、このアルカロイドは消化器系でコレステロールと結合し、アルカロイドとコレステロールの両方が体外に排泄されるというメカニズムがわかりました。研究チームは、トマチンを多く含む青トマトと精製トマチンの両方が、動物には好ましくないLDLコレステロール(悪玉コレステロール)のレベルを下げることを発見しました。
フード・ジャーナリストの見解
イタリアの伝統的な美食と健康に情熱を注ぐ、ジャーナリストのルチアーノ・ペレグリー氏は、次のように述べています。
“ 緑のトマトを定期的に食べることで、心臓発作、脳卒中、アテローム性動脈硬化症など、心臓血管系に関連する問題のリスクを軽減することができます。また、家庭内でのちょっとした火傷にも適しています。火傷した部分にトマトのスライスを当てると効果的です。 緑のトマトは体に悪いのでしょうか?アイオワ大学(米国)の研究者による最新の科学的研究によると、青トマトは体に悪いものではないことが判明しました。逆に、トマチジン(小さな天然分子)の存在は、健康、特に体の骨格や筋肉系に良い影響を与え、体脂肪の量を減らすために代謝を助けます。つまり、この野菜を生で食べても、調理して食べても、幸福の「爆弾」となるのです。”
プロの料理人の食材として
イタリア系アメリカ人のシェフで料理作家であるマリオ・バターリは、著書の中で『青トマトソースのスパゲッティ』をご紹介しています。彼は、アメリカ版「料理の鉄人」で注目のアイアンシェフの一人でした。
味と特性
過度に未熟な果実は収斂性(しゅうれんせい:口内の粘膜の潤滑がなくなったようなキュッキュッする感じ)があります。海外ではそのような大きくもなっていない白っぽい緑のトマトもレリッシュや漬物に加工して食べますが、極度に未熟なものを除いて、青トマトそのものを楽しんで味わいたいのであれば、前記の目次「追熟法」は、もはや必要ないでしょう。
青トマトは熟したトマトと違ってゼリーの部分が少なく、その部分は厚い果肉が占めています。 果皮はハリがあり、果肉との癒着性が強く、それが歯ごたえを出します。
丸かじり
密度が高いため、しっかりとした「シャクッ」とした歯ごたえのある食感が楽しめます。そして清涼感があります。この清涼感は、青リンゴやライム、ミントやペパーミントなどの清涼感を思い浮かべてはいけません。果物と違って甘さが無い清涼感で酸味もそれほどでもありません。リンゴやナシなどの果実と異なる歯ごたえの快感と、キュウリやメロンのような青い香りとも異なる青い香りが、共に清涼感を増強させています。これは青トマトだけの比べようのない、比べてはならない味わいと清涼感です。 近年のミディトマトの中にもゼリー部分が少なく、しっかりとした歯ごたえのものもありますが、糖度先行に作られているため、青トマトの味わいをそれで代用して想像することは出来ません。
余談ですが、人間は想像力があります。例えば、リアルタイムな時代ではない事でもそれを想像したり、感覚的にレトロなイメージや懐かしさを感じたりします。 「童心に帰る」という言葉がありますが、戦前、戦時中、戦後の人々の中には年少期にトマト畑で、まだ青いトマトを盗み食いするというようなこともあったでしょう。 現在は彼らが食べていたような香り高いトマトは中々食べられなくなりました。 これは日本だけでなく、海外のトマト研究者たちも述べています。
未熟な『青トマト』の丸かじりは、仮想なりとも何かしらの「根本や味わいの原点」を感じれるものだと思います。
用途
青トマトは、フライ、キャセロール、パイ、またはスープ、レリッシュとしてサルサ、チャツネ、ジャム、ピクルスなど多用に使われます。 日本であれば、ピクルスと同じように浅漬けや醤油漬け、漬物、糠漬けにしても美味しいものができます。
青トマトを使った『サルサ・ディ・ポモドーリ・ヴェルディ』は、グリーントマト・ソースとも呼ばれ、典型的なセルビア料理ではパスタや茹で肉、ブルスケッタに使われます。
カリフォルニア州アナハイムにあるディズニーランド内のハングリーベア・レストランでは、完熟した赤いトマトを使う『BLT』ではなく、それとは相対する未熟な青トマトを使った『フライド・グリーン・トマト・サンドイッチ』を提供して名物になっています。
民間療法
未熟トマトのソラニンは静脈瘤を減らすと考えられているようで、まずは青トマトを輪切りにし、静脈瘤の上に塗り乗せて、2〜3分放置する。ソラニンは皮膚を乾燥させるらしく、トマトスライスを剥がした後は、保湿剤を塗る。これを10日間繰り返す。そうすると静脈瘤が消えていくのがわかるといいます。この効果が事実であれば、これはソラニンではなく青トマトに含まれるトマチンか別の物質の作用の可能性が考えれる。