麻婆茄子
麻婆茄子(まーぼーなす / 鱼香茄子:ユィシャンチェズ)は、四川の伝統料理である魚香茄子(鱼香茄子)を基に日本でアレンジされた料理である。
鱼香茄子
鱼香茄子(中国語:ユィシャンチェズ)は、四川省東部に位置する达州市(達州市:たつしゅうし)达川区(達川区:たつせんく)の名物料理の一つであり、日本の麻婆茄子の原型料理である。
魚(ユィ)を冠する料理名だが、魚に由来するものではなく、赤唐辛子の塩漬け(泡红辣椒:パオラージャオ)、ネギ、ショウガ、ニンニク、砂糖、塩、醤油などの調味料によるものである。 この調理法は、四川省独特の魚の調理法に端を発し、現在では四川料理に広く用いられており、塩味、酸味、甘味、辛味、香りを持ち合わせた新鮮で豊かな風味を特徴としている。
港式魚香茄子(広東語:ガァンシィー・ユィシャンチェズ)は、香港でアレンジされた魚香茄子である。 従来、魚香とは四川料理の調理法を指しており、魚香茄子は魚香の調理法を用いて豚挽肉と茄子を調理したものである。 しかし、広東省や香港では文字通り、魚の香りを際立たせるために、鹹魚(広東語:ハムユイ / 塩漬した魚)を刻んだものを加え、塩辛い風味を楽しむ。 また、辛味は餡ではなく唐辛子を用いる。 香港ではハムユイが入らなければ魚香茄子とは呼べないと考えている人々も多い。
歴史
中国
伝承によると、昔、四川省の達州地方に、魚好きで味付けにこだわる商家があり、魚を料理するときは生臭さを消し、風味を増すために、ネギ、生姜、ニンニク、紹興酒、酢、醤油などの調味料を入れていたという。 ある晩、この家の婦人が別の料理を炒めていたとき、食材を無駄にしないように前回の魚料理で使った残りの食材を全て料理に混ぜた。 そのとき彼女は「この料理はあまり美味しくないかもしれない。主人が帰ってきたときには手に負えないかもしれない。」と思ったが、そうこうしているうちに夫が仕事から帰ってきた。 夫は腹が空いていたのか、それともこの料理が特別なものだと感じたのか、あっと言う間に手掴みで平らげてしまったが彼女はそれを理解できなかった。 1分も待たないうちに夫は料理が何でできているのかを妻に尋ね、妻は口ごもりながら、彼が料理の美味しさを褒めているのに驚いた。 妻が答えないのを見て、夫はもう一度「何でできているんだ?、何故こんなに美味しいのか?」と尋ねたという。
この料理は、魚などの具材を炒めたもので非常に印象に残ることから「鱼香炒」(ユィシャンチャオ)と名付けられた。 その後、四川の人々によって数年にわたり改良が加えられ、鱼香猪肝(ユィシャンヂュガン:魚香風豚レバー)、鱼香肉丝(ユィシャンロース:魚香風豚肉の細切り)、鱼香茄子(ユィシャンチェズ:魚香風茄子)、鱼香三丝(ユィシャンサンスー:魚香風三種の細切り)などが四川料理のレシピに組み込まれた。
日本
1984年(昭和59年)、大手食品加工メーカーの丸美屋(まるみや)は、麻婆を基に日本人の味覚に合わせ、家庭でも食べられる調味料「麻婆茄子の素」を販売し、日本国内に麻婆茄子を浸透させた。 この商品は赤味噌と醤油をベースに豆板醤などの中国味噌を配合したものである。 その後、Cook Do(味の素)から麻婆茄子用の「中華合わせ調味料」が販売された。 丸美屋の麻婆茄子のフリガナは「マーボーナス」、Cook Doの麻婆茄子のフリガナは「マーボチェズ」となっている。
日本に現存する最古の中国料理店であった1884年(明治17年)創業の聘珍樓(へいちんろう)横濱本店では「香辣肉崧茄瓜」(豚挽き肉と茄子の麻婆醤煮込み)として提供していた。 聘珍樓が2022年5月15日に閉店したことによって、1892年(明治25年)創業の萬珍樓(まんちんろう)本店が実質的に日本最古の中国料理店となった。 ヌーベル・シノワ基調の萬珍樓では麻婆茄子飯(マーボー茄子あんかけ御飯)を含むコース料理がある。