二十銭料理(食道楽)

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赤茄子の詰物

二十銭料理(にじゅっせんりょうり)は、明治36年(1903年)発行された村井 弦斎(むらい げんさい)の小説『食道楽』「秋の巻」に赤茄子を用いる料理が登場する項である。

第二百三十九 二十銭弁当

 小山は大に悦べり「二十銭の原料で西洋料理の御馳走が出来れば是非一つ社員を驚かして西洋料理の応用法を知らしめたいと思います。 その代り日本料理の原料なら大概外の人にも直段が分りますけれども西洋料理では分らん人が多いから、御馳走を出すと同時に一々その説明をしなければなりません。どういう風な御馳走です」お登和嬢「それは西洋風にも沢山ある事で、極ごく簡略な御馳走ですが、先ず三色のサンドウィッチを拵こしらえましょう。一つは玉子、一つは牛肉、一つは赤茄子と西洋風に三色のサンドウィッチを出して手軽な西洋菓子を拵え暑い時分ですから冷した珈琲でも出しましょう」小山「オヤ、そんなに出来ますか。二十銭の原料で上りますか」お登和嬢「出来ますとも。念のために一つ一つ紙へ計算を記して御覧なさい。エート、先ずサンドウィッチの原料として、食パン一斤を薄すく切って二十片にします。二片ずつで一色のサンドウィッチを作りますから一人前が六片要いります、二十人前で百二十片ちょうど六斤ですね。一斤七銭と見てそれが四十二銭です。今度は中へ挟む玉子ですが二十人前に八つあれば沢山ですから一つ三銭と見て二十四銭です。その玉子を湯煮て裏漉にしてバターと塩胡椒で煉って塗りますがバターと塩胡椒の代が一人前一銭、二十人前で二十銭あれば充分です。モー一つは牛肉で、一斤十八銭のブリスケという処を買って一晩強い塩水へ漬けて翌日四時間ばかり湯煮て肉挽器械で挽いて塩胡椒して塗ります。二十人前に三斤使うとして五十四銭です。塩と胡椒は何ほども要りません。先ず二十人前で五銭としておきましょう。その次が赤茄子で二十人前におよそ二斤半要るとして一斤六銭ならば十五銭です。しかしトマトは安い代りにマイナイスソースの固いのを作ってパンへ塗てトマトを挟まなければなりませんからマイナイスソースの代を一人前一銭ずつ二十人で二十銭と致しましょう。それで何ほどになりました。一つ寄せてみて下さい」小山「エート、食パンが四十二銭、玉子が二十四銭、バターその外が二十銭、ブリスケが五十四銭、塩が五銭、赤茄子とマイナイスで三十五銭、合せて一円八十銭ですね、一円八十銭で三色のサンドウィッチが二十人前出来れば一人前九銭ですね。そう思うと実に安いものですな」お登和嬢「何でも家庭で料理すると原料はその通りに安いものです。しかしサンドウィッチには臭いような悪いバターを使うといけません。バターの匂いで外の物の味を消します。上等のバターを水でよく晒らして匂を取って使わなければなりません。三色のサンドウィッチが出来ましたらば少し大片に一組を三つに切って三色で九つに作るとちょうど食べるにも都合がようございます。サンドウィッチはそれで出来ました。一人前ずつ紙へ包んで持出しても構いません。今度はお菓子ですね。これはカップケーキという手軽な西洋菓子に致しましょう」と随分面倒なる御馳走の才覚。

参考文献