「食道楽・冬の巻」の版間の差分

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== 附録 ==
 
== 附録 ==
 
=== 病人の食物調理法 ===
 
=== 病人の食物調理法 ===
 およそ各種の病人に食物ほど大切な事はありません。
 
一方に医者の薬を浴びるほど飲んでも一方で食物の注意を怠ればそれがために癒るべき病も急に癒らず、場合によると薬の効目ききめを打消して一層病を重くする事もあります。
 
病気によっては薬を飲まないでも食物療法ばかりで癒る種類が沢山あります。
 
如何なる病気も食物の影響を蒙らないものはありません。
 
 
 しかるに我邦の有様は医師ですらまだ食物療法に注意する人が寡ない位ですから素人との家では病人があると何でもお粥か重湯を食べさせて滋養物には玉子と牛乳をそのまま与えるばかりのように思っています。
 
玉子や牛乳は病人に悪い訳でありませんけれども毎日料理法を変えて行かなければ病人が飽きてしまいます。
 
一月も二月もお粥や牛乳ばかり飲まされては食慾が減じて身体に力が付きません。
 
病人は普通の人よりも食慾が寡いからそれに与える食物は普通の人に与えるよりも一層美味しく料理しなければなりません。
 
しかるに我邦の有様は病人の食物というと何でも味のない物ばかりです。病人こそ可哀想でありませんか。
 
 
 病人の食物を択ぶ事は医師の指図を受けなければなりませんが択んだ食物を料理する方法は各人が自ら研究しなければなりません。
 
同じ品物でも料理法次第で消化吸収が良くも悪くもなりますし、同じ料理でも味の良いのと悪いのとで病人の食べる分量に大差が出ます。
 
一口に物がよく食べられる病人は大丈夫だという位で消化力の許す限り多くの滋養分を食べられれば病人が衰弱しません。
 
殊に重い病気や激しい病気に堪えるのは多く食物の力です。
 
 
 病人に食物を与える目的も色々ありまして第一には胃腸病患者のように消化吸収の良いものを択ぶ事です。
 
第二には病後の恢復期や衰弱の予防のために滋養物を多く与える事です。
 
第三には食物の成分を変化させて病気を癒す事です。
 
譬えば糖尿病には糖分を禁じて肉食を勧めるとか腎臓病には肉食を禁じて菜食を勧めるとかいう場合です。
 
第四には衰弱した諸機能を奮励せしめるために興奮性のスープや珈琲のようなものを用ゆる場合もあります。
 
第五には産前産後のように乳へ影響する食物を択ばなければならん事もあります。
 
産褥中の母親が少しでも悪い物を食べると当人には何の影響がなくっても小児が忽ち下痢や便秘を起すようなものでよほど注意しなければなりません。
 
 
 それから同じ病気でも第一は年齢によって食物を斟酌しなければなりません。
 
若い人は新陳代謝が活溌ですから消化力もさほどに衰えませんが老人は病気に罹ると忽ち消化力が衰えますから消化の良いものを与えるのが必要です。
 
第二は体力によって食物を加減しなければなりません。
 
体力の盛な人と弱い人では食物を消化吸収する力が大層違います。
 
第三は体質によっても食物を斟酌しなければなりません。
 
神経質の人と脂肪質の人とは同じ病気中でも食物の配合を少しずつ違えるのが必要です。
 
第四は習慣によっても斟酌を加えなければなりません。
 
平生好きな物は少し位不消化物でも病人に何の害を与えない事もありますし、平生嫌いな物は消化を良く料理しても病人の胃に堪えられない事もあります。
 
さてこう申すと大層むずかしくって容易に食物を定める事が出来ないようですけれどもこの道理を胸に入れて食道楽の本文にある通り程と加減に注意すれば大きな間違いも起りません。
 
平生の食物にも程と加減が大切ですが病人の食物には殊に大切です。
 
 
 さて病人の食物といっても数限りもありませんがここへ出しておく料理は大概な病人に応用する事が出来ますから病人のある家では必ずお医者に相談してこの中のどれがいいかという事をお尋ねなさい。
 
お医者や看護婦も平生この料理法を研究しておいて病家の人たちへ勧めるようにしたら必ず病人の幸福になりましょう。
 
 
*第四十四 [[トマトスープ(食道楽)|トマトスープ]]
 
*第四十四 [[トマトスープ(食道楽)|トマトスープ]]
 
*第百六 [[挽肉のカツレツ(食道楽)|挽肉のカツレツ]]
 
*第百六 [[挽肉のカツレツ(食道楽)|挽肉のカツレツ]]
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*第百四十 [[野菜入オムレツ(食道楽)|野菜入オムレツ]] 
 
*第百四十 [[野菜入オムレツ(食道楽)|野菜入オムレツ]] 
 
*第百四十一 [[マカロニシチュー(食道楽)|マカロニシチュー]]
 
*第百四十一 [[マカロニシチュー(食道楽)|マカロニシチュー]]
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=== 戦地の食物衛生 ===
 
=== 戦地の食物衛生 ===
 
*第一 病気の敵
 
*第一 病気の敵

2022年5月2日 (月) 07:44時点における版

『食道楽』冬の巻

食道楽(くいどうらく)は、村井弦斎の小説。 また、同小説から派生した同名の演劇作品。

大隈伯爵家温室内の食卓

大隈伯爵家温室内の食卓

○大隈伯爵家温室内の食卓(口絵参照)
 我邦に来遊する外国の貴紳が日本一の御馳走と称し帰国後第一の土産話となすは東京牛込早稲田なる大隈伯爵家温室内の食卓にて巻頭に掲ぐるは画伯水野年方氏が丹青を凝して描写せし所なり。

 この粧飾的温室はいわゆるコンサーバトリーにして、東西七間南北四間、東西は八角形をなし、シャム産のチーク材を撰び、梁部は錬鉄製粧飾金具を用ゆ。 中間支柱なく上部は一尺二寸間ごとに椽を置き一面に玻璃を以って覆おおわれ、下部は粧飾用敷煉瓦がを敷詰め、通気管は上部突出部および中間側窓と、下方腰煉瓦の場所に設けらる。 棚下の発温鉄管は室内を匝環し、冬季といえども昼間七十五度夜間五十五度内外の温度を保つ。 周囲における二層の花壇には、絶えず熱帯産の観賞植物を陳列し、クロートン(布哇産大戟科植物譲葉の類)、ドラセナー(台湾およびヒリッピン産千年木の類)、サンセビラ(台湾産虎尾蘭とらのおらんの類)、パンダヌス(小笠原島辺の章魚の木き)その他椰子類等はその主なるものにて、これを点綴せる各種の珍花名木は常に妍を競い美を闘わし、一度凋落すれば他花に換え、四時の美観断ゆる事なし。

 この爽麗なる温室内に食卓を開きて伯爵家特有の嘉肴珍味を饗す。 この中に入る者はあたかも天界にある心地して忽たちまち人間塵俗の気を忘る。 彩花清香眉目に映じ珍膳瑶盤口舌を悦よろこばす。 主客談笑の間、和気陶然として逸興更に竭くる事なけん。

目次

附録

病人の食物調理法

戦地の食物衛生

  • 第一 病気の敵
  • 第二 飲用水
  • 第三 食物
  • 第四 食物の種類
  • 第五 酒
  • 第六 応急の手当
  • 第七 寝冷ねびえの害

関連項目