「苏波汤」の版間の差分

提供: Tomatopedia
ナビゲーションに移動 検索に移動
 
(同じ利用者による、間の197版が非表示)
1行目: 1行目:
 
__FORCETOC__
 
__FORCETOC__
 
[[File:Chinese Tomato Dishes -(苏波汤)Su Bo Tang.png|thumb|right|250px|『苏波汤』(黒竜江省・ハルビン市)]]
 
[[File:Chinese Tomato Dishes -(苏波汤)Su Bo Tang.png|thumb|right|250px|『苏波汤』(黒竜江省・ハルビン市)]]
'''苏波汤'''(スーボータン)は、ロシアを起源とするスープで、中国の最北端および最東端に位置する黒竜江省(こくりゅうこうしょう)の省都であるハルビン市で発展し、土着したスープである。
+
'''苏波汤'''(スーボータン)は、ロシア料理の[[ボルシチ]]を起源とし、中国の最北端および最東端に位置する黒竜江省(こくりゅうこうしょう)の省都であるハルビン市で発展した定番のスープである。
  
 
== ハルビン市 ==
 
== ハルビン市 ==
黒竜江省は、ロシア極東連邦管区の巨大都市であるウラジオストクと隣接しており、省都ハルビン市の街並みは今でもロシアの雰囲気を色濃く残している。
+
[[File:Harbin -(中央大街)Zhongyang Street.png|thumb|right|200px|中央大街(ハルビン市)]]
この街は金・清の両王朝の発祥の地であり、のちに「東洋のモスクワ」と形容された。
+
黒竜江省の省都であるハルビン市は中国の歴史において、金王朝(きん:1115年1月28日 - 1234年2月9日)と清王朝(しん:1616年2月17日 - 1912年2月12日)の発祥の地である。
ハルピンのランドマークといえば、1924年にロシア人が設計したショッピングストリート「中央街」、旧ソ連の影響を受けた「スターリン公園」、ロシア正教会の「聖ソフィア大聖堂」など、大小さまざまなロシア様式の建築物が数え切れないほどある。
+
黒竜江省は、ロシア極東連邦管区の巨大都市であるウラジオストクと隣接しており、のちにハルビンの街はロシアの影響を受け、「東洋のモスクワ」、「東洋の小さなパリ」と形容された。
 +
 
 +
ハルビン市の街並みは現在でもロシアの雰囲気を色濃く残している。
 +
ハルピンのランドマークといえば、1924年にロシア人が設計したショッピングストリート「中央大街」、旧ソ連の影響を受けた「スターリン公園」、ロシア正教会の「聖ソフィア大聖堂」など、大小さまざまなロシア様式の建築物が数え切れないほどある。
 
中国の少数民族には、中国に逃れてきたロシア人や旧ソ連の移民の子孫であるロシア系民族が含まれており、ハルピンはその子孫の主要な居住地の一つである。
 
中国の少数民族には、中国に逃れてきたロシア人や旧ソ連の移民の子孫であるロシア系民族が含まれており、ハルピンはその子孫の主要な居住地の一つである。
  
== 歴史的背景 ==
+
== 歴史 ==
 +
[[File:Chinese Eastern Railway.png|thumb|right|200px|東清鉄道とシベリア鉄道]]
 +
1920年代、東清鉄道の開通と運行に伴い、大量のロシア人ディアスポラ(離散したロシア民族)の流入で、ハルピンのみならず、黒竜江省全体の政治、経済、社会、文化などの総合的な影響を及ぼし、大きな変化が起こった。
 +
ハルビンの街は、異国の大都市へと変貌し、鉄道沿線のロシア貴族とともに、ハルビンとその周辺地域にボルシチをもたらしたのである。
 +
同時期に、ハルビンからウラジオストク、ハバロフスクへと渡った料理人の中には、ロシア租界(ロシア人居留地)やロシア人の集聚地で、ボルシチを含むロシア風西洋料理の調理法を学んだ者もいた。
 +
 
 +
しかし、ボルシチの特徴的な野菜であるテーブルビート(红菜根)は、ハルビン周辺では生産されておらず、入手も困難であった。
 +
だが、この頃すでに中国では[[トマト]]が大流行していたため、当時の料理人は、テーブルビートの酸味をトマトで代用した。
 +
そして次第に「红菜汤」(ホンツァイタン)は、ハルビンの事情に合わせた「苏泊汤」(スーボータン)になっていったのである。
 +
 
 +
ハルビンの西洋レストラン(西餐厅)ではトマトベースでありながら “ 红菜汤 ” と表記されているのは、その名残りである。
  
 
== 語源 ==
 
== 語源 ==
16行目: 29行目:
  
 
苏波汤の「苏波」(スーボー)はロシア語のスープの音訳に由来し、「汤」(タン)は中国ではスープを意味する。
 
苏波汤の「苏波」(スーボー)はロシア語のスープの音訳に由来し、「汤」(タン)は中国ではスープを意味する。
よって、直訳では “ スープ スープ ” という重複した意味になってしまうが、これは日本で韓国の鍋料理(チゲ)をチゲ鍋(ちげなべ)と呼び、 “ 鍋 鍋 ” は正しくないにせよ、庶民の間では意味合いとして伝わりやすく、一般的な響きとして定着した経緯と同じである。
+
よって、直訳では “ スープ スープ ” という重複した意味になってしまうが、これは日本において韓国の鍋料理(チゲ)をチゲ鍋(ちげなべ)と呼び、 “ 鍋 鍋 ” は正しくないにせよ、庶民の間では意味合いとして伝わりやすく、一般的な響きとして定着した経緯と同じである。
 +
 
 +
== 特徴 ==
 +
夏から秋にかけて、ハルビンの人々の多くは苏波汤を作る。
 +
どこの家庭でも作られ、漢民族も多いため、豚肉を牛骨や羊肉に少しずつ置き換えていった。
 +
最もシンプルなのは、キャベツ(包心菜:東北地方では洋白菜ともいう)、ジャガイモ、トマトで作る植物性の素材を主体とした素汤(スータン)の苏波汤である。
  
 
== メニュー表記 ==
 
== メニュー表記 ==
[[File:Chinese Tomato Dishes -(红菜汤)Hong Cai Tang at Huamei Restaurant in Harbin, Heilongjiang.png|thumb|right|200px|「红菜汤」华梅西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)]]
+
=== 红菜汤 ===
'''红菜汤'''<br>
+
*'''华梅西餐厅''':1925年に、马尔斯茶食店として創業した「华梅西餐厅」は、上海の「雅克红房子西餐厅」、北京の「马克西姆餐厅」、天津の「天津起士林大饭店」とともに、中国4大洋食レストランの一つとして知られている。
1925年に、马尔斯茶食店として創業した「华梅西餐厅」は、上海の「雅克红房子西餐厅」、北京の「马克西姆餐厅」、天津の「天津起士林大饭店」とともに、中国4大洋食レストランの一つとして知られている。
+
 
华梅西餐厅は、ハルビンを訪れる際に必ず立ち寄るべきグルメスポットとなっており、メニューには「红菜汤」(ホンツァイタン)と表記されている。
+
*'''马尔斯西餐馆''':1925年創業
红菜汤は必食アイテムになっている。
+
 
 +
*'''露西亚西餐厅''':2000年に創業した「露西亚西餐厅」は、3歳で家族とハルビンに移り住んだニーナ(1900年 - 2001年)というロシア人女性の意志でオープンした。 レストランは俄侨纪念馆と併用しており、生前の彼女の数多くの写真、食器、ピアノ、アンティーク家具などが飾られ、当時の歴史を知る貴重な資料館でもある。 国内外のメディアからも評価されており、ナショナル ジオグラフィックによる中国のレストランTOP50の1つにも選ばれている。
 +
 
 +
*老厨家 友谊路总店
 +
 
 +
=== 乌克兰红菜汤 ===
 +
*'''塔道斯西餐厅''':1901年創業の「塔道斯西餐厅」はハルビンで最古の洋食レストランである。 「乌克兰」は中国語でウクライナを意味する。
 +
 
 +
=== 莫斯科红菜汤 ===
 +
*波特曼西餐厅:「莫斯科」は中国語でモスクワを意味する。
 +
 
 +
*老华侨家常西餐厅
 +
 
 +
*莉莉娅家常西餐厅
  
'''莫斯科红菜汤'''<br>
+
=== 俄罗斯红菜汤 ===
 +
*'''欧罗巴西餐厅''':2003年創業の「欧罗巴西餐厅」は、ハルピンで最大の大型レストランで同時に400人が収容可能である。 豪華な内装と建築様式が特徴でピアノなどの生演奏を聴きながらディナーを楽しめる。 「俄罗斯」は中国語でロシアを意味する。
  
 +
=== 俄式红菜汤 ===
 +
*'''马迭尔西餐厅''':
  
 +
*'''金色时光俄式西餐厅''':
  
'''苏泊汤'''<br>
+
=== 苏泊汤 ===
 +
*'''张飞扒肉''':1979年に創業した「张飞扒肉」は、八角、シナモン、ナツメグなどの香辛料を使い、皮つきの豚バラ肉を煮込んだハルビンの名物「扒肉」(バーロウ)を提供する店である。 ハルビンには “ 开奔驰,吃小吃 ” (メルセデス・ベンツを走らせ、小吃を食べる)という言葉があり、ピーク時にはベンツなどの高級外車が路肩に駐車され、仮設テーブルが用意されるほど人気がある。
  
 +
苏泊汤(スーボータン)は “ 苏波汤 ” と全く同じ意味であり、一般的には最もポピュラーな呼称である。
  
'''酸辣汤'''<br>
+
=== 酸辣汤 ===
メニュー表記は「酸辣汤」ではあるものの、地元客からは苏泊汤と呼ばれているものもある。
+
*'''老昌春饼''':ハルビンの伝統的な食べ物である春餅(シュンビン)を提供する「老昌春饼」のメニュー表記は「酸辣汤」ではあるものの、地元客からは “ 苏泊汤 ” と呼ばれている。 これは、多少の辛味と酸味がある苏泊汤であり、明らかに一般的な[[酸辣汤]]とは異なる。 酸辣汤にはトマト(西红柿)が使われる場合もあるため、省外から来客した人々によって西红柿酸辣汤として紹介されることもあるが、それは極少数であり、ほとんどが苏泊汤として認識している。
多少の辛味と酸味がある苏泊汤であり、明らかに一般的な[[酸辣湯|酸辣汤]]とは異なる。
 
酸辣汤にはトマト(西红柿)が使われる場合もあり、来客した省外の人々によって西红柿酸辣汤として紹介されることもあるが、それは極少数であり、ほとんどが苏泊汤として認識している。
 
  
 
== ギャラリー ==
 
== ギャラリー ==
 
<gallery mode="packed">
 
<gallery mode="packed">
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(红菜汤)Hong Cai Tang at Huamei Restaurant in Harbin, Heilongjiang.png|「'''红菜汤'''」<br>华梅西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(红菜汤)Hong Cai Tang at Cafe Russia in Harbin, Heilongjiang.png|「'''红菜汤'''」<br>露西亚西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(红菜汤)Hong Cai Tang at Mars Restaurant in Harbin, Heilongjiang.png|thumb|right|200px|「'''红菜汤'''」<br>马尔斯西餐馆<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(红菜汤)Hong Cai Tang at Lao Chu Jia in Harbin, Heilongjiang.png|thumb|right|200px|「'''红菜汤'''」<br>老厨家<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(红菜汤)Hong Cai Tang at 92°C Russian Cuisine Restaurant in Harbin, Heilongjiang.png|thumb|right|200px|「'''红菜汤'''」<br>92°C俄式厨房<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(红菜汤)Hong Cai Tang at KATUSHA in Harbin, Heilongjiang.png|thumb|right|200px|「'''红菜汤'''」<br>喀秋莎俄式餐馆<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(红菜汤)Hong Cai Tang at 老俄楼家常西餐厅 in Harbin, Heilongjiang.png|thumb|right|200px|「'''红菜汤'''」<br>老俄楼家常西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
 
Image:Chinese Tomato Dishes -(莫斯科红菜汤)Mosike Hong Cai Tang at Portman's Restaurant in Harbin, Heilongjiang.png|「'''莫斯科红菜汤'''」<br>波特曼西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 
Image:Chinese Tomato Dishes -(莫斯科红菜汤)Mosike Hong Cai Tang at Portman's Restaurant in Harbin, Heilongjiang.png|「'''莫斯科红菜汤'''」<br>波特曼西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(莫斯科红菜汤)Mosike Hong Cai Tang at 埃迭姆老华侨西餐厅 in Harbin, Heilongjiang.png|「'''莫斯科红菜汤'''」<br>埃迭姆老华侨西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(莫斯科红菜汤)Mosike Hong Cai Tang at 莉莉娅家常西餐厅 in Harbin, Heilongjiang.png|「'''莫斯科红菜汤'''」<br>莉莉娅家常西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(俄式红菜汤)E Shi Hong Cai Tang at Ma Die Er Western Restaurant in Harbin, Heilongjiang.png|thumb|right|200px|「'''俄式红菜汤'''」<br>马迭尔西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(俄式红菜汤)E Shi Hong Cai Tang at 金色时光俄式西餐厅 in Harbin, Heilongjiang.png|thumb|right|200px|「'''俄式红菜汤'''」<br>金色时光俄式西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(俄式红菜汤)E Shi Hong Cai Tang at 金环西餐厅 in Harbin, Heilongjiang.png|thumb|right|200px|「'''俄式红菜汤'''」<br>金环西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(俄式红菜汤)E Shi Hong Cai Tang at 老俄楼西餐厅 in Harbin, Heilongjiang.png|thumb|right|200px|「'''俄式红菜汤'''」<br>老俄楼西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(俄罗斯红菜汤)E Luo Si Hong Cai Tang at Ouluoba Restaurant in Harbin, Heilongjiang.png|「'''俄罗斯红菜汤及酸奶油'''」<br>欧罗巴西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(俄罗斯红菜汤)E Luo Si Hong Cai Tang at Melanie Restaurant in Harbin, Heilongjiang.png|「'''俄罗斯红菜汤'''」<br>梅拉尼西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(俄罗斯国宴红菜汤)E Luo Si Guo Yan Hong Cai Tang at Dagongguan 1903 Hotel in Harbin, Heilongjiang.png|「'''俄罗斯国宴红菜汤'''」<br>大公馆1903俄式餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(乌克兰红菜汤)Wu Ke Lan Hong Cai Tang at Tatoc in Harbin, Heilongjiang.png|「'''乌克兰红菜汤'''」<br>塔道斯西餐厅<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(阿卡德米式经典红菜汤)Hong Cai Tang at Beer Academy in Harbin, Heilongjiang.png|「'''阿卡德米式经典红菜汤'''」<br>阿卡德米啤酒坊<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(红汤)Hong Tang at 老俄侨私房菜 in Harbin, Heilongjiang.png|「'''红汤'''」<br>老俄侨私房菜<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 +
 +
Image:Chinese Tomato Dishes -(苏泊汤)Su Bo Tang at Zhang Fei Ba Rou in Harbin, Heilongjiang.png|「'''苏泊汤'''」<br>张飞扒肉<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 
Image:Chinese Tomato Dishes -(苏泊汤)Su Bo Tang at Maomao Smoked Meat House in Harbin, Heilongjiang.png|「'''苏泊汤'''」<br>毛毛熏肉<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 
Image:Chinese Tomato Dishes -(苏泊汤)Su Bo Tang at Maomao Smoked Meat House in Harbin, Heilongjiang.png|「'''苏泊汤'''」<br>毛毛熏肉<br>(黒竜江省・ハルビン市)
Image:Chinese Tomato Dishes -(苏泊汤)Su Bo Tang at Zhang Fei Ba Rou in Harbin, Heilongjiang.png|「'''苏泊汤'''」<br>张飞扒肉<br>(黒竜江省・ハルビン市)
+
Image:Chinese Tomato Dishes -(苏泊汤)Su Bo Tang at Dong Fang Jiao Zi Wang in Harbin, Heilongjiang.png|「'''苏泊汤'''」<br>东方饺子王<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 
Image:Chinese Tomato Dishes -(酸辣汤)Suan La Tang at Lao Chang Chun Bing in Harbin, Heilongjiang.png|「'''酸辣汤'''」<br>老昌春饼<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 
Image:Chinese Tomato Dishes -(酸辣汤)Suan La Tang at Lao Chang Chun Bing in Harbin, Heilongjiang.png|「'''酸辣汤'''」<br>老昌春饼<br>(黒竜江省・ハルビン市)
 
</gallery>
 
</gallery>
49行目: 113行目:
 
*[[ボルシチ]]:ウクライナ
 
*[[ボルシチ]]:ウクライナ
 
*[[罗宋汤]]:中国・上海市
 
*[[罗宋汤]]:中国・上海市
 +
*[[牛腩柿子汤]]
 
----
 
----
 
[[Category:トマト料理|す]]
 
[[Category:トマト料理|す]]
 
[[Category:中国のトマト料理|す]]
 
[[Category:中国のトマト料理|す]]
 
[[Category:黒竜江省のトマト料理|す]]
 
[[Category:黒竜江省のトマト料理|す]]

2024年2月26日 (月) 00:27時点における最新版

『苏波汤』(黒竜江省・ハルビン市)

苏波汤(スーボータン)は、ロシア料理のボルシチを起源とし、中国の最北端および最東端に位置する黒竜江省(こくりゅうこうしょう)の省都であるハルビン市で発展した定番のスープである。

ハルビン市

中央大街(ハルビン市)

黒竜江省の省都であるハルビン市は中国の歴史において、金王朝(きん:1115年1月28日 - 1234年2月9日)と清王朝(しん:1616年2月17日 - 1912年2月12日)の発祥の地である。 黒竜江省は、ロシア極東連邦管区の巨大都市であるウラジオストクと隣接しており、のちにハルビンの街はロシアの影響を受け、「東洋のモスクワ」、「東洋の小さなパリ」と形容された。

ハルビン市の街並みは現在でもロシアの雰囲気を色濃く残している。 ハルピンのランドマークといえば、1924年にロシア人が設計したショッピングストリート「中央大街」、旧ソ連の影響を受けた「スターリン公園」、ロシア正教会の「聖ソフィア大聖堂」など、大小さまざまなロシア様式の建築物が数え切れないほどある。 中国の少数民族には、中国に逃れてきたロシア人や旧ソ連の移民の子孫であるロシア系民族が含まれており、ハルピンはその子孫の主要な居住地の一つである。

歴史

東清鉄道とシベリア鉄道

1920年代、東清鉄道の開通と運行に伴い、大量のロシア人ディアスポラ(離散したロシア民族)の流入で、ハルピンのみならず、黒竜江省全体の政治、経済、社会、文化などの総合的な影響を及ぼし、大きな変化が起こった。 ハルビンの街は、異国の大都市へと変貌し、鉄道沿線のロシア貴族とともに、ハルビンとその周辺地域にボルシチをもたらしたのである。 同時期に、ハルビンからウラジオストク、ハバロフスクへと渡った料理人の中には、ロシア租界(ロシア人居留地)やロシア人の集聚地で、ボルシチを含むロシア風西洋料理の調理法を学んだ者もいた。

しかし、ボルシチの特徴的な野菜であるテーブルビート(红菜根)は、ハルビン周辺では生産されておらず、入手も困難であった。 だが、この頃すでに中国ではトマトが大流行していたため、当時の料理人は、テーブルビートの酸味をトマトで代用した。 そして次第に「红菜汤」(ホンツァイタン)は、ハルビンの事情に合わせた「苏泊汤」(スーボータン)になっていったのである。

ハルビンの西洋レストラン(西餐厅)ではトマトベースでありながら “ 红菜汤 ” と表記されているのは、その名残りである。

語源

ハルビンでは、「苏波」(スープ)、「列巴」(パン)、「布拉吉」(ドレス)、「格瓦斯」(クワス)などといったロシア語の発音を借用した方言がある。 これらの言葉の中には、中国語の発音と同義になったものや固有名詞そのものになったものもある。

苏波汤の「苏波」(スーボー)はロシア語のスープの音訳に由来し、「汤」(タン)は中国ではスープを意味する。 よって、直訳では “ スープ スープ ” という重複した意味になってしまうが、これは日本において韓国の鍋料理(チゲ)をチゲ鍋(ちげなべ)と呼び、 “ 鍋 鍋 ” は正しくないにせよ、庶民の間では意味合いとして伝わりやすく、一般的な響きとして定着した経緯と同じである。

特徴

夏から秋にかけて、ハルビンの人々の多くは苏波汤を作る。 どこの家庭でも作られ、漢民族も多いため、豚肉を牛骨や羊肉に少しずつ置き換えていった。 最もシンプルなのは、キャベツ(包心菜:東北地方では洋白菜ともいう)、ジャガイモ、トマトで作る植物性の素材を主体とした素汤(スータン)の苏波汤である。

メニュー表記

红菜汤

  • 华梅西餐厅:1925年に、马尔斯茶食店として創業した「华梅西餐厅」は、上海の「雅克红房子西餐厅」、北京の「马克西姆餐厅」、天津の「天津起士林大饭店」とともに、中国4大洋食レストランの一つとして知られている。
  • 马尔斯西餐馆:1925年創業
  • 露西亚西餐厅:2000年に創業した「露西亚西餐厅」は、3歳で家族とハルビンに移り住んだニーナ(1900年 - 2001年)というロシア人女性の意志でオープンした。 レストランは俄侨纪念馆と併用しており、生前の彼女の数多くの写真、食器、ピアノ、アンティーク家具などが飾られ、当時の歴史を知る貴重な資料館でもある。 国内外のメディアからも評価されており、ナショナル ジオグラフィックによる中国のレストランTOP50の1つにも選ばれている。
  • 老厨家 友谊路总店

乌克兰红菜汤

  • 塔道斯西餐厅:1901年創業の「塔道斯西餐厅」はハルビンで最古の洋食レストランである。 「乌克兰」は中国語でウクライナを意味する。

莫斯科红菜汤

  • 波特曼西餐厅:「莫斯科」は中国語でモスクワを意味する。
  • 老华侨家常西餐厅
  • 莉莉娅家常西餐厅

俄罗斯红菜汤

  • 欧罗巴西餐厅:2003年創業の「欧罗巴西餐厅」は、ハルピンで最大の大型レストランで同時に400人が収容可能である。 豪華な内装と建築様式が特徴でピアノなどの生演奏を聴きながらディナーを楽しめる。 「俄罗斯」は中国語でロシアを意味する。

俄式红菜汤

  • 马迭尔西餐厅
  • 金色时光俄式西餐厅

苏泊汤

  • 张飞扒肉:1979年に創業した「张飞扒肉」は、八角、シナモン、ナツメグなどの香辛料を使い、皮つきの豚バラ肉を煮込んだハルビンの名物「扒肉」(バーロウ)を提供する店である。 ハルビンには “ 开奔驰,吃小吃 ” (メルセデス・ベンツを走らせ、小吃を食べる)という言葉があり、ピーク時にはベンツなどの高級外車が路肩に駐車され、仮設テーブルが用意されるほど人気がある。

苏泊汤(スーボータン)は “ 苏波汤 ” と全く同じ意味であり、一般的には最もポピュラーな呼称である。

酸辣汤

  • 老昌春饼:ハルビンの伝統的な食べ物である春餅(シュンビン)を提供する「老昌春饼」のメニュー表記は「酸辣汤」ではあるものの、地元客からは “ 苏泊汤 ” と呼ばれている。 これは、多少の辛味と酸味がある苏泊汤であり、明らかに一般的な酸辣汤とは異なる。 酸辣汤にはトマト(西红柿)が使われる場合もあるため、省外から来客した人々によって西红柿酸辣汤として紹介されることもあるが、それは極少数であり、ほとんどが苏泊汤として認識している。

ギャラリー

関連項目