「大日本帝国陸軍の基本だし」の版間の差分
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== 調理一般の心得 == | == 調理一般の心得 == | ||
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調味品は他の材料と異なり、献立に示されたる分量をそのまま一回に投入すべきものにあらず、まず普通の場合はその八分目を入れ、残り二分は味を見つつ適量を使用すべきものなり。 | 調味品は他の材料と異なり、献立に示されたる分量をそのまま一回に投入すべきものにあらず、まず普通の場合はその八分目を入れ、残り二分は味を見つつ適量を使用すべきものなり。 | ||
これは調味品その物の「キキ」の強弱および調理材料の性状ならびに量の多少により加減すべきものなり。 | これは調味品その物の「キキ」の強弱および調理材料の性状ならびに量の多少により加減すべきものなり。 | ||
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他では「刻み昆布」が使われるが、出汁を抽出してから引き出すことはせず、具の一つとして調理される。 | 他では「刻み昆布」が使われるが、出汁を抽出してから引き出すことはせず、具の一つとして調理される。 | ||
煮出汁は「スープ台」と同様に数あるレシピの中で共通として使われるものだが、レシピ全体から見るとそれも「ある程度」でしかない。 | 煮出汁は「スープ台」と同様に数あるレシピの中で共通として使われるものだが、レシピ全体から見るとそれも「ある程度」でしかない。 | ||
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煮出汁は主に「削り節」を水で煮出したものである。 | 煮出汁は主に「削り節」を水で煮出したものである。 | ||
− | + | 削り節の原料である鰹節が不足する事態によっては煮干粉または煮干鰯が代わって使われる場合もあるが、料理によって煮出汁の材料が変わるということはない。 | |
また別段、煮出汁のみのレシピは存在しない。 | また別段、煮出汁のみのレシピは存在しない。 | ||
アクは取り除くと思われるが『削節』の活用事例から考察すると「煮出汁」が果たして鰹節を濾した清澄なものであったのかは疑問である。 | アクは取り除くと思われるが『削節』の活用事例から考察すると「煮出汁」が果たして鰹節を濾した清澄なものであったのかは疑問である。 | ||
− | + | それは唯一、鰹節を濾すことを明記しているのは「鰹節スープ」(吸い物)のみでありながら、煮出汁を用いるレシピに見られるような文脈や煮出汁に持ち得る多様性が一切記されておらず、逆に煮出汁を用いるものには一切「濾す」という文脈がないためである。 | |
※[[#朝食用味噌汁|朝食用味噌汁]]と通常の[[#味噌汁|味噌汁]]に「煮出汁」の文脈があるので参考として合わせて記載する。 | ※[[#朝食用味噌汁|朝食用味噌汁]]と通常の[[#味噌汁|味噌汁]]に「煮出汁」の文脈があるので参考として合わせて記載する。 | ||
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=== 削節 === | === 削節 === | ||
前記した「スープ台」や「煮出汁」から群を抜き、一番多用されるのが『削節』である。 | 前記した「スープ台」や「煮出汁」から群を抜き、一番多用されるのが『削節』である。 | ||
− | + | 表記例は『削節:〇グラム(又は煮干粉:〇グラム)』となっていていることから、基本的には煮出汁と同じく鰹の削り節であり、煮干粉はその代用といったところだろう。 | |
− | + | 和え物の「白和え」には煮干粉のみが使われるように、両方を用いるようなレシピは見受けられない。 | |
− | + | 汁物や煮物系の場合は削節を投入後、出汁を抽出してから濾して取り除くことなく料理に混合される。 | |
海軍では「鯉こく」など素材から出汁が出る料理には「煮出汁」すら用いないが、陸軍では「鯉こく」などにも削節が加えられる。 | 海軍では「鯉こく」など素材から出汁が出る料理には「煮出汁」すら用いないが、陸軍では「鯉こく」などにも削節が加えられる。 | ||
削節の用途に和洋の隔たりはなく、味噌汁、またシチューなど様々なレシピに用いられる。 | 削節の用途に和洋の隔たりはなく、味噌汁、またシチューなど様々なレシピに用いられる。 | ||
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※味の素の用途の一例として[[#鰹節スープ(吸い物)|鰹節スープ]]を参考として記載する。 | ※味の素の用途の一例として[[#鰹節スープ(吸い物)|鰹節スープ]]を参考として記載する。 | ||
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== スープ台 == | == スープ台 == | ||
=== 骨スープ === | === 骨スープ === | ||
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*牛、または羊、豚、鶏骨:二・五キログラム | *牛、または羊、豚、鶏骨:二・五キログラム | ||
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=== 鰹節スープ(吸物) === | === 鰹節スープ(吸物) === | ||
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+ | == 陸軍と海軍 == | ||
== 関連項目 == | == 関連項目 == |
2024年2月25日 (日) 07:59時点における最新版
大日本帝国海軍の基本だし(Basic soup stock of the Imperial Japanese Army)は、大日本帝国陸軍における料理の基本出汁である。
調理一般の心得
味の付方
調味品は他の材料と異なり、献立に示されたる分量をそのまま一回に投入すべきものにあらず、まず普通の場合はその八分目を入れ、残り二分は味を見つつ適量を使用すべきものなり。 これは調味品その物の「キキ」の強弱および調理材料の性状ならびに量の多少により加減すべきものなり。
ゆえに献立に示す調味品の分量は、単にその標準を示すに過ぎざるものなるをもって、実施にあたりてはこれを加減し適量を使用することに注意すべし。
また調味品には「味」を主とするものと「香り」を主とするものとあり、味を主とするものは最初より入れ、充分煮出し、香りを主とするものにありては火を止める直前に入るるを良しとす。
醤油を使用する場合、その一部分を食塩にて補うを有利とする場合多し、また砂糖のみを使用する菓子類にありては少量の食塩を混ずれば甘味を増し、かつ味を高尚にするものなり。
軍隊炊事のごとく、多人数の食事を調理する所にありては、調理者は単に自己の嗜好を基として味付けすべきものにあらず、なるべく多人数の欲するごとく味付けせざるべからず、これがため甘味、塩味、酸味、辛味等のどの程度が最も多数の兵卒に嗜好せらるるやを調査し、自隊における標準味を知り、特定の味見人を置きてこれに合するごとく味付けすべきものなり。
概要説明
スープ台
陸軍における基本の出汁に『スープ台』というものがある。 獣肉類の骨を使った『骨スープ』が「スープ台」と称され、料理の出汁に用いられる。 材料の骨に特に指定はなく、海軍のように西洋料理、和食料理で出汁を使い分けるということは見られない。 西洋料理を先んじて取り入れた海軍は極端に洋風レシピが多く、一方で陸軍の洋風レシピは極端に少ない。 その中でシチューやカレー(カレー汁)といった唯一ポピュラーな響きの料理があるが、これらは味噌汁と同じ「汁物」に分類されている。 これらにこそ「骨スープ」が使われそうだが、シチューには「削節」が使われ、カレー汁には出汁は全く使用されず食塩のみである。 スープ台は数あるレシピの中で共通として使われるものだが、レシピ全体から見るとそれも「ある程度」でしかない。
煮出汁
陸軍における和の食材を使った基本の出汁に『煮出汁』というものがある。 海軍でも日本料理に用いる昆布と鰹節を材料とした『煮出汁』があるがそれと異なる。 材料は「削り節」のみであり、出汁昆布が用いられるものは単独で極少数である。 「鰹節スープ」にさえ、出汁昆布が使われないほどで、ほとんどは「味の素」で補う。 他では「刻み昆布」が使われるが、出汁を抽出してから引き出すことはせず、具の一つとして調理される。 煮出汁は「スープ台」と同様に数あるレシピの中で共通として使われるものだが、レシピ全体から見るとそれも「ある程度」でしかない。
煮出汁は主に「削り節」を水で煮出したものである。 削り節の原料である鰹節が不足する事態によっては煮干粉または煮干鰯が代わって使われる場合もあるが、料理によって煮出汁の材料が変わるということはない。 また別段、煮出汁のみのレシピは存在しない。 アクは取り除くと思われるが『削節』の活用事例から考察すると「煮出汁」が果たして鰹節を濾した清澄なものであったのかは疑問である。 それは唯一、鰹節を濾すことを明記しているのは「鰹節スープ」(吸い物)のみでありながら、煮出汁を用いるレシピに見られるような文脈や煮出汁に持ち得る多様性が一切記されておらず、逆に煮出汁を用いるものには一切「濾す」という文脈がないためである。
※朝食用味噌汁と通常の味噌汁に「煮出汁」の文脈があるので参考として合わせて記載する。 また、鰹節スープは「味の素」の用途例を含め参考資料として記載する。
削節
前記した「スープ台」や「煮出汁」から群を抜き、一番多用されるのが『削節』である。 表記例は『削節:〇グラム(又は煮干粉:〇グラム)』となっていていることから、基本的には煮出汁と同じく鰹の削り節であり、煮干粉はその代用といったところだろう。 和え物の「白和え」には煮干粉のみが使われるように、両方を用いるようなレシピは見受けられない。 汁物や煮物系の場合は削節を投入後、出汁を抽出してから濾して取り除くことなく料理に混合される。 海軍では「鯉こく」など素材から出汁が出る料理には「煮出汁」すら用いないが、陸軍では「鯉こく」などにも削節が加えられる。 削節の用途に和洋の隔たりはなく、味噌汁、またシチューなど様々なレシピに用いられる。
削り節は海軍では懐石・割烹系の調理法で用いるが、一方の陸軍はインスタント系の調理法といってよい。 これは陸地を行軍しなければならない陸軍にとって合理性を優先したものである。 椀に細かくもみほぐした削り節か煮干し粉と味噌、昆布の粉末か昆布茶を少々入れ、湯を注いで溶くだけで簡易的で出汁の効いた味噌汁が作れるのは現代も変わらない。
※削節の用途の一例として味噌汁を参考として記載する。
味の素
削節と並んで比較的多く用いられるのが『味の素』である。 スープ台のように出汁に併用して添加される場合もあるが、出汁の一種として単独で用いられるものが多くある。 その場合は、塩、醤油、味噌のみで調味されたものに添加され、スープ台や煮出汁、削節は用いない。 陸軍において「味の素」は出汁昆布の代用として用いられている。
※味の素の用途の一例として鰹節スープを参考として記載する。
スープ台
骨スープ
材料(一〇人分)
- 牛、または羊、豚、鶏骨:二・五キログラム
- 水:九リットル
- 玉葱:二〇〇グラム
- 西洋人参:一五〇グラム
- 食塩:二三グラム
- 味の素:少量
準備
- イ、骨は冷水にて洗い、大きなものは砕きて水と共に鍋に入れ、食塩を加えて約三〇分間そのままとなし置く。
- ロ、玉葱は皮を去り二つ割りとなし、人参は薄く木口切りとなし置く。
調理
骨を入れたる鍋に玉葱および人参を入れ、急に沸騰せしめたるのち上面に浮ぶ泡を去り、文火にて約三時間(三・六リットルとなるまで)煮詰め、水篩にて濾してその汁を取り、上面に浮ぶ泡および脂肪を掬い去り、食塩および味の素にて調味す。
備考
普通これをスープ台と称し、次のごとく種種の中身を入れて用う。 スープ台はアルミまたは琺瑯質のものを使用するを可とす。
煮出汁
朝食用味噌汁
材料(一人分)
- もやし:三〇グラム
- 摺り味噌:六〇グラム
- 削節(または煮干粉):四グラム
- 豆腐:五五グラム
- 水:三六〇グラム
準備
- イ、もやしはよく水を切り置く。
- ロ、豆腐は賽の目に切り置く。
調理
鍋に水を入れて煮立て、削り節を入れて煮出し汁をつくりおき、味噌を入れ、最後に豆腐およびもやしを入れ、蓋なしでざっと煮る。
備考
もやしの代わりに時季に応じ、ほうれん草または芋、大根、馬鈴薯、八ツ頭、蕪青、茄子、冬瓜、とろろ昆布、芋茎、三ツ葉、玉菜、春菊、つまみ菜、葱、麺類、麩等なるべく繊維の少なきものを用う。
削節
味噌汁
- 熱量:一八九、カロリー
- 蛋白質:一七・九二グラム
材料(一人分)
- 豆腐:八〇グラム
- 削節:四グラム(又は煮干粉:二グラム)
- 葱:一〇〇グラム
- 味噌:六〇グラム(又は粉味噌:三〇グラム)
調理
- イ、豆腐は細かく、葱は三センチ位に切り、摺り味噌(又は粉味噌)はそのまま、粒味噌は肉挽き器にかけ置く。
- ロ、鍋に約三五〇ミリリットルの水を煮立て、削節と味噌を入れて攪拌し、一沸しして葱、豆腐を加え、さらに一沸しして火よりおろす。
備考
- イ、汁の実は二種以内を可とし、豆もやし、葱、豆腐、若布、麩、(素麺のごとき早く煮えるものを用うべし)煮え難きものはあらかじめ水煮したるのち味噌を入れるべし。
- ロ、摺り味噌よりも粒味噌を使用前に摺り潰して用うる方が風味よし。
- ハ、味噌汁は出来上りを食するごとく注意すべし、それがためには、一鍋につき味噌量と水量とはあらかじめよく計り、濃淡の修正をなさざること肝要にして、濃い目に立て、あとより湯を注ぐとも、淡目に立てて味噌を追加せざるよう注意すべし。
- ニ、煮出し用として煮干粉又は削節のほか煮干鰯を用うるときは、水から入れて充分に味を出すことと同時に煮沸により臭味をのぞくこと必要なり。
- ホ、葉葱、小松菜のごとき葉菜、又は豆腐のごときものは、味噌汁を仕立ててのち、ざっと煮るをよしとす。
- ヘ、味噌汁は温かきを尊しとし、摂氏六〇度以上にて供するよう注意すべし。
味の素
鰹節スープ(吸物)
材料(一人分)
- 鰹節:七グラム
- 水:三〇〇ミリリットル
- 食塩および醤油:少量
- 味の素:少量
調理
- イ、鰹節を微温湯に浸し、黒い部分を削り取り、赤身の部分だけ鉋にかけてごく薄く削り置く。
- ロ、鍋に水二七〇ミリリットルを入れて火に架け、沸騰したとき鍋のまま火より下ろして鰹節を入れ、約一分間そのままとし、表面に浮べる白き泡を丁寧に掬い取り、鰹節が全部沈殿するを待ちて布漉しとして滓を去り、主として食塩にて調味し、醤油二、三滴を落し、味の素を入れる。
備考
以上流動食はことごとく他の物を含まざるものなれども、患者の嗜好により、他の流動食たとえば牛乳、鶏卵または葛、澱粉等を混合して持ちうることを得。
陸軍と海軍
関連項目
参考文献
- 『軍隊調理法』:第二章 調理法(第一〇 特別食 其の二 流動食・一六)
- 『軍隊調理法』:第二章 調理法(第一〇 特別食 其の三 軟食・八)
- 『軍隊調理法』:第二章 調理法(第二 汁物・一)
- 『軍隊調理法』:第二章 調理法(第一〇 特別食 其の二 流動食・二三)