マーヴィン・ハリス

マーヴィン・ハリス（Marvin Harris：1927年8月18日 - 2001年10月25日）は、アメリカの人類学者。ニューヨーク市のブルックリンに生まれる。カール・マルクスの「生産力」と、トーマス・マルサスの「人口動態」が社会文化システムの他の部分に与える影響についての洞察を融合させ、「文化的物質主義」と「環境決定論」の発展に大きな影響を与えた。

ハリスは、人口学的要因と生産的要因を「インフラストラクチャー」と呼び、これらの要因が社会構造や文化を決定する重要な要素であると考えました。1968年に『The Rise of Anthropological Theory』を出版して以来、ハリスは文化と生態の関係について人類学者の関心を集めるようになりました。ハリスの出版物の多くは、一般読者にも広く普及しています。

ハリスは、その生涯において、多くの人々から支持されると同時に、多くの批判を受けました。アメリカ人類学協会の年次総会では、ハリスは常連となり、学者たちにフロアや演壇、バーから激しい質問を浴びせました。彼は、人類の起源や人類の文化の進化を説明するグローバルなプロセスに興味を持っていたジェネラリストと考えられている。

ハリスは最後の著書『Theories of Culture in Postmodern Times』で、ポストモダン理論の政治的帰結が有害であることを主張し、後に哲学者のリチャード・ウォーリンらが展開したものと同様の批判を行った。

初期

世界大恐慌の直前に生まれたハリスは、ブルックリンでの幼少期は貧しい生活を送っていました。第二次世界大戦末期にアメリカ陸軍に入隊し、G.I.ビルの資金を利用して、戦後のアメリカの新世代の人類学者たちとともにコロンビア大学に入学しました。ハリスは熱心な読書家で、競馬場で何時間も過ごすのが好きでした。最終的には、複雑な数学的賭けのシステムを開発し、それが成功したことで、妻のマデリンと彼が大学院に通っている間の生活を支えることができました。

ハリスの初期の研究は、彼の師であるチャールズ・ワグリーのもとで行われました。ブラジルでの卒業研究では、後に彼が非難することになる人類学におけるボアシアン・デスクリプティングの伝統を受け継いだ、目立たない村落調査を行いました。

卒業後、コロンビア大学の助教授となったハリスは、1957年にモザンビークでフィールドワークを行っている間に、自身の理論的・政治的な方向性を変えるような大きな変化を経験しました。

理論的貢献

ハリスの初期の研究は、記述的人類学のフィールドワークというボア派の伝統に基づいて行われていましたが、1950年代後半のモザンビークでのフィールドワークの経験から、文化のイデオロギー的な特徴から行動的な側面に焦点を移すようになりました。1969年に出版された人類学思想史『The Rise of Anthropological Theory』では、何百年にもわたる社会思想を批判的に検討し、人類の文化に対する実行可能な理解を構築することを目的としており、ハリスはこれを「カルチュラル・マテリアリズム」と呼ぶようになりました。大学院生の間では「The RAT」という愛称で親しまれているこの本は、古典的な社会理論と現代のマクロ社会理論を統合したものです。

カルチュラル・マテリアリズムは、マルクスの上部構造と下部構造のカテゴリーを取り入れ、洗練させたものです。ハリスは、生産手段や搾取といったマルクス主義の中核的な概念を修正・増幅したが、マルクス主義思想の2つの重要な側面を否定した。すなわち、弁証法はマルクスの時代の知的流行であるとし、理論と実践の一体化は、社会科学者にとって不適切で有害な姿勢であるとみなしたのである。また、ハリスはマルサスの人口論を社会文化の進化の大きな決定要因として研究戦略に組み入れており、マルクスが人口を因果関係のある要素として否定していることと対照的である。

ハリスは、社会が環境を利用する主要なメカニズムは、社会のインフラである生産様式（技術や労働形態）と人口（人口の特徴、出生率や死亡率など）にあると考えました。このような行為は、生命を維持するために必要不可欠なものであるため、社会構造や文化的価値観、信念は、これらの行為と一致していなければなりません。科学の目的から、ハリスはこう書いている。

“調査分野において最大の秩序を発見することであり、理論構築のための優先順位は、自然の公理からの最大の直接的な拘束を受けている分野に論理的に落ち着く。文化的観念論者が提唱するように、精神的上部構造（アイデアやイデオロギー）に戦略的な優先順位を与えることは、悪い賭けだと思います。自然は、神が愛すべき父親であるか、血に飢えた人食いであるかには無関心である。しかし、焼畑の休耕期間が1年であろうと10年であろうと、自然は無関心ではない。私たちは、インフラストラクチャーのレベルで強力な拘束力が存在することを知っています。したがって、これらの拘束力が構造的および上部構造的な構成要素に引き継がれることは間違いありません。(ハリス 1979年)“

ハリスは、エミックとエティックを決定的に区別していましたが、それは『人類学理論の興隆』の中で説明されて以来、かなり洗練されたものになりました。エミック」と「エティック」という言葉は、宣教師で言語学者のケネス・パイクの研究から生まれたものですが、パイクはハリスの概念とは異なっていました。ハリスが使ったエミックとは、情報提供者や対象者にとって正しく意味のある記述や説明を意味するのに対し、エティックな記述や説明とは、科学界が社会文化生活の理論を発芽させ、強制するために用いるものである。つまり、エミックは参加者の視点であり、エティックは観察者の視点であるということです。ハリスは、人間の思考や行動を説明するためには、実際には両方とも必要であると主張していました。

ハリスは、肥満の形成における生物学的余剰理論の改訂など、主要な理論的課題に初期から貢献してきました。また、インドの宗教における家畜の扱いを唯物論的に説明したことでも知られています。ハリスは、マイケル・ハーナーと並んで、アステカのカニバリズムはアステカの食生活におけるタンパク質の欠乏の結果として起こったという提案に最も関連する学者の一人である。その説明は、ハリスの著書『Cannibals and Kings』に掲載されている。ハリスはまた、ヤノマモ族の戦争を説明するために、人間が動物性タンパク質を求めていることに言及し、民族学者のナポレオン・シャニオンが人間の生来の男性の攻撃性に関わる社会生物学的な説明をしていたことと矛盾している。

他にもハリスは、多くの文化における食生活の文化的・物質的ルーツを考察した著書として、『Cows, Pigs, Wars, and Witches』（1975年）などがある。Cows, Pigs, Wars, and Witches: The Riddles of Culture』（1975年）、『Good to Eat: Good to Eat: Riddles of Food and Culture』（1998年、原題は『The Sacred Crow and the Abominable Pigs』）や、共編著『Food and Evolution: 共編著に『Food and Evolution: Toward a Theory of Human Food Habits』（1987年）がある。

ハリスの『Why Nothing Works: The Anthropology of Daily Life」（1981年、原題：America Now: the Anthropology of a Changing Culture）は、文化的物質主義の概念を用いて、インフレ、女性の大量有給労働参加、結婚生活の安定、粗悪品など、20世紀後半のアメリカの社会的発展を説明している。

『His Our Kind: Who We Are, Where We're From, Where We Are』（1990年）では、人間の肉体的・文化的進化を幅広く調査し、人間の性転換や非性転換、不平等の起源などについて、刺激的な説明を行っている。最後に、ハリスが1979年に発表した『Cultural Materialism: 2001年に更新されて再発売されたこの本は、おそらく最も包括的なカルチュラル・マテリアリズムの声明と言えます。

批判・論争

ハリスの人類学への貢献は多岐にわたりますが、"他の人類学者や観察者は、人がなぜそのように行動するのかということについて、ハリス博士と同じくらい多くの意見を持っていた "と言われています。スミソニアン誌は、彼を "現存する最も議論の多い人類学者の一人 "と呼んだとされています。ワシントン・ポスト』紙は彼を "同分野における嵐の中心 "と評し、『ロサンゼルス・タイムズ』紙は彼を "一般化しすぎた思い込み "と非難した。ハリスは、他の理論を辛辣に批判することもあり、しばしば反撃を受けました。晩年の10年間は、20世紀末の人類学に多大な影響を与えたと考えるポストモダニストたちとの戦いを繰り広げました。

キャリア

ハリスは、1949年にコロンビア大学で修士号と博士号を、1953年にコロンビア大学で博士号を取得しました。ブラジルやアフリカのポルトガル語圏でフィールドワークを行った後、コロンビア大学の教授に就任しました。最終的にはコロンビア大学人類学部長に就任した。1968年に起きたコロンビア大学の学生によるキャンパス占拠事件では、ハリスは、学生が警察に脅されたり殴られたりしたときに、学生側についた数少ない教員のリーダーの一人でした。1960年代から1970年代にかけては、ニュージャージー州のレオニアに住んでいました。

次にハリスは、1981年にフロリダ大学の人類学部門に参加し、2000年に引退して人類学大学院研究科の名誉教授となりました。また、アメリカ人類学協会の一般人類学部門の議長も務めました。

また、17冊の著書があります。大学で使用した2冊の教科書「Culture, People, Nature: An Introduction to General Anthropology "と "Cultural Anthropology "の2冊の教科書は7版が発行されました。ハリスの研究テーマは、人種、進化、文化など多岐にわたります。ラテンアメリカとブラジルを中心に、バイーア諸島、エクアドル、モザンビーク、インドなども研究対象としている。

著書

一般向けの作品

『Cows, Pigs, Wars and Witches』1975年
『Cannibals and Kings』1977年
『Why Nothing Works: The Anthropology of Daily Life』1987年
『Our Kind: who we are, where we came from, where we are going』1990年
『Good to Eat: Riddles of Food and Culture. Illinois』1998年

学術的な作品

『The Rise of Anthropological Theory: A History of Theories of Culture』1968年
『Cultural Materialism: The Struggle for a Science of Culture』1979年
『Food and Evolution: Towards a Theory of Human Food Habits』1987年
『Death, Sex, and Fertility: Population Regulation in Preindustrial and Developing Societies』1987年
『Theories of Culture in Postmodern Times. California』1999年