ワーテルゾーイ

提供: Tomatopedia
2023年6月18日 (日) 04:46時点におけるWebmaster (トーク | 投稿記録)による版 (→‎19世紀)
ナビゲーションに移動 検索に移動
魚類を使った『ワーテルゾーイ・ドゥ・ポワソン』

ワーテルゾーイ(Waterzooï)は、ベルギー北部に位置するオースト=フランデレン州の州都ヘント(ゲント)発祥の料理である。 よって、地名のゲントを表し「ワーテルゾーイ・ア・ラ・ガントワーズ」(Waterzooï à la Gantoise)とも呼ばれる。

語源

ワーテルゾーイ(Waterzooï)は、ベルギーおよびフランス北東部で話されているフラマン語で「煮えた水」を意味する。 “ Water ” は “ 水 ” 、“ zooi ” は “ 煮える ” を意味し、特に魚の調理に用いられた古い動詞 “ Zuien ” に由来する。

起源

スヘルデ川の経路

起源は、13世紀末の中世にさかのぼる。 当時、スヘルデ川の水位を調整するため、ダムと水車が建設された。 スヘルデ川は、フランス・エーヌ県を源流とし、ベルギーのゲント(Gand)を通り、オランダを経由して北海へ注ぐ川である。 建設された水車群は、日本でも古くから水車の動力を活かして米の脱穀、蕎麦や小麦などの製粉に利用されてきたように、穀物や小麦の製粉工場の役割も果たした。 これによって大量の屑が川に流れ込み、それをエサとして多種の淡水魚が大繁殖し、漁師の数も大幅に増えたのである。 地元では豊富な淡水魚が捨て売り同然の値段で手に入り、その日に獲れた魚を手軽に調理する方法として誕生した料理とされる。

ヘント生まれで、ハプスブルク家・スペイン国王(スペイン帝国)のカルロス1世(1500年2月24日 - 1558年9月21日)は、第3代神聖ローマ帝国皇帝「カール5世」としても即位した。 ワーテルゾーイは、彼がヘントのシント・ジョリショフ(Sint Jorishof)宮殿で食べていたお気に入りの料理だったと伝えられている。

食材の変化

13世紀

『ワーテルゾーイ・ドゥ・ポワソン・ア・ラ・ガントワーズ』魚のワーテルゾーイ・ゲント風(2018年・優勝作品)

本来、ワーテルゾーイはスヘルデ川で獲れる淡水魚類で作られていた。 古典的なレシピでは7種類以上の淡水魚が含まれている。

  • アンギーユAnguille):ヨーロッパウナギ
  • カルプCarpe):コイ
  • テンチTanche):コイ科の魚
  • バボーBarbeau):コイ科のさまざまな種の魚
  • ブロシェBrochet):パイク
  • ペルシュPerche):パーチ
  • ベックBec):カワカマス
  • ロタ・ロタLota lota):カワメンタイ

これらの淡水魚は、2000年代までに川から姿を消し、絶滅に瀕した。 この危機的状況を回避するため、魚を保護する対策を講じたことにより、ゲントの川は再び息を吹き返しつつある。 現在、古典的なワーテルゾーイは、ブロシェやウナギ、その他の淡水魚で作られるようになったが、まだまだ多くの人々の口に上ることは少ない。 元祖のワーテルゾーイが淡水魚であったことを知らない人々も多く、鶏肉や海水魚を使ったものが伝統的なワーテルゾーイとして、あまりにも広く認知されて定着してるため、影が薄い存在となっているのも要因の一つである。

2018年、ゲントで開催された「Week van het Gents」(ゲント・ウイーク)では、地元食材に基づいた本来のワーテルゾーイを復元すべく、鶏肉を使わずにゲントの川に生息する4種の淡水魚をメインに作ったワーテルゾーイが優勝した。 淡水に生息するザリガニ(Écrevisse:エクルヴィス)も添えられた。

19世紀

19世紀末になると工業化が始まり、ゲントとその周辺には多くの工場が建設された。 淡水魚が繁殖した直接的要因であった水車が近代化によって姿を消すと同時に、魚たちも徐々に姿を消していった。 さらに拍車をかけるように、工場から排出される多くの産業廃棄物によって河川の水質汚染が進み、魚の数が激減したのである。 水車から排出された廃棄物は魚と地元民に大きな恩恵をもたらしたが、工場の廃棄物は魚と地元民に大きなダメージを与えるという皮肉な結果となった。 豊漁だった時代から一転して不漁に陥り、魚の価格が高騰したため、慣れ親しんだワーテルゾーイを作るためには別の安価な食材を探し、代替する必要があった。

ゲントには養鶏農家が多くあり、高値になった魚よりも鶏肉の方がはるかに安かったため、代用されるようになった。

メニュー名とバリエーション

家禽

『ワーテルゾーイ・ドゥ・プレ』
  • ワーテルゾーイ・ドゥ・プレWaterzooï de Poulet):鶏肉を使ったもので、魚主体のワーテルゾーイ・ドゥ・ポワソンと並ぶ定番メニュー。店によっては、鶏のササミ(Blanc de poulet:ブラン・ドゥ・プレ)を使う場合もあるが、一般的には、鶏モモ肉(Cuisses:キュイッス)、または、下モモ肉(Pilons:ピロン)が使われる。ニワトリの品種では、ベルギーの地鶏「メヘレン・クークック」(Mechelse Koekoek)という大型品種が有名である。
  • ワーテルゾーイ・ドゥ・ボライユWaterzooï de Volaille):ボライユとは、ニワトリを含む家禽類(ガチョウ、アヒル、七面鳥、ホロホロ鳥、ウズラ、キジ、ハトなど)の総称。厳密には食用として飼育されたウサギ(ラパン)やカエル(グルヌイユ)も家禽に含まれるが、これらの食材はワーテルゾーイに使われることは少ない。

魚類

『ワーテルゾーイ・ドゥ・ポワソン』
  • ワーテルゾーイ・ドゥ・ポワソンWaterzooï de Poisson):魚を使ったもので、鶏肉主体のワーテルゾーイ・ドゥ・プレと並ぶ定番メニュー。主に北海産のシタビラメ、サーモン、タラ、アンコウ、シーバス、エイなどの海産魚類が使われる。
  • ワーテルゾーイ・ドゥ・ポワソン・ド・メールWaterzooi de Poisson de Mer):ポワソン・ド・メールとは、 “ 海水魚 ” を意味する。魚主体のワーテルゾーイ・ドゥ・ポワソンと同義で用いられることが多いが、貝類や甲殻類を多少加えたものにも用いられる場合がある。
  • ワーテルゾーイ・ドゥ・ラ・メールWaterzooï de la mer):ラ・メールとは、フランス語で “ 海 ” を指す固有名詞。鶏肉を使った陸のワーテルゾーイ・ドゥ・プレに対して “ 海のワーテルゾーイ ” というニュアンスである。魚主体のワーテルゾーイ・ドゥ・ポワソンと同義で用いられることが多いが、貝類や甲殻類を多少加えたものにも用いられる場合がある。

貝類・甲殻類

  • ワーテルゾーイ・ドゥ・フリュイ・ド・メールWaterzooï de fruits de mer):フリュイ・ド・メールとは、直訳すると “ 海のフルーツ ” 、いわば “ 海の幸 ” のことで、シーフード全般の総称。主に北海産の魚介類を使ったもので、貝類や甲殻類を豊富に加えたものが一般的である。
  • ワーテルゾーイ・ドゥ・ラ・メール・ドュ・ノールWaterzooï de La Mer du Nord):メール・ドュ・ノールとは、フランス語でヨーロッパ北西部に面する “ 北海 ”(英: North Sea)の固有名詞。「ワーテルゾーイの北海風」を意味し、北海産の魚介類へのこだわりを強調したメニュー名として用いられる。
  • ワーテルゾーイ・ドゥ・オマールWaterzooï de Homard):オマール海老を使ったもの。伝統的なレストランなどでは、オマールは他のメイン食材として使われるため、一般的ではない。

野菜類

  • ワーテルゾーイ・ドゥ・レギュームWaterzooï de Légumes):野菜のみを使ったもの。提供する店は存在するが極めて少ない。主に菜食主義者の間で作られるもので一般的ではない。


関連項目