腌酸鱼
腌酸鱼(イェンスゥァンユー)は、雲南省の西北部に位置する麗江市(れいこうし)寧蒗イ族自治県(寧蒗彝族自治県)北部にある瀘沽湖(ろここ)周辺に居住するモソ族(摩梭人)とプミ族(普米族)の伝統料理である。
概要
腌酸鱼は、瀘沽湖に生息する固有種であるコイ科シセンアブラハヤ属の裂腹魚(リィェフーユー / 学名:Schizothorax sinensis)を主原料とし、それを層状に積み重ねて漬け込み、密封発酵の工程を経て作られる。 陶製の壺に半月ほど漬け込むことで独特な酸味と風味が生まれる。 肉質は柔らかで身の間の骨が少なく、さっぱりした口当たりで食欲を増進させる特徴がある。 また、保存食として季節を問わず通年で食すことが可能であり、生食の他、炒めもの、酸辣湯にしても美味である。 腌酸鱼の伝統的な製法技術は、現地の民族の宴会作法と食文化を受け継いでおり、2021年には麗江市の十大名物料理の一つに選ばれた。
※瀘沽湖の特産である裂腹魚はチベット高原の固有種である。 成魚の体長は約20cm、重さは約250g。 2009年、環境の変化により国家保護水生動物2級に指定された。
製法
- .新鮮な裂腹魚の活魚を用いる。
- .魚の腹を開いて内臓を抜いて洗浄し、魚体を開いた状態に平らに整える。
- .開いた魚全体に塩、糌粑面(ハダカムギを炒った粉)、花椒、五香粉をふりかけて馴染ませ、開いた魚の腹側を下にして陶製の壺に積み重ねる。(各層を魚と香辛料を含めて約3~5cmの厚さにする。)
- .壺に蓋をして密封し、涼しい場所に10~15日間置いて発酵させる。(乳酸菌によって魚のタンパク質の分解が促進され、独特の風味が形成される。)
※上記の香辛料に「自烤酒」(ズーカオジゥ:モロコシ、うるち米、もち米、小麦、トウモロコシの5種類を原料とした穀物酒)を混ぜ合せ、ペースト状にしたものを漬け込みに使う場合もある。 自烤酒は、主に山岳地帯に暮らす人たちによって醸造され、愛飲されている自家製蒸留酒である。 また、訪れた来客者の “もてなし” に供される。 小規模のコミュニティで嗜むものであるため、一般的な商品として市場に流通することはない。 一般的に流通している同類の穀物を使った蒸留酒に「烤酒」や「五粮液」(四川省)などがある。
食べ方
- 生食:腌酸鱼の身をスライスして食し、青稞酒(チンクェ゛ァジゥ:ハダカムギ酒)を飲みながら味わう。
- 炒めもの:ピーマンとネギを加えて炒めると酸味と風味が引き立つ一品ができる。
- スープ:トマトと唐辛子を加えてスープにすると美味な酸辣湯ができる。
伝統食品
腌酸鱼は、モソ族の「成人式」や「春節」を含む祝祭の宴会に欠かせない料理であり、主催の客人に対する “もてなしの心” を象徴したものである。 また、高原地帯の食生活に適応するために培われた酸味のある発酵食品は食糧を保存するための伝統的な知恵を反映している。 2015年以降、瀘沽湖の観光の発展に伴い、少数民族の食文化を広める代表的な料理となった。
類似料理
ジーヌオ族
雲南省の南端に位置するシーサンパンナ・タイ族自治州(西双版纳傣族自治州)景洪市(けいこうし)のジーヌオ集村(基諾郷)とその近隣の山間部に居住するジーヌオ族(基诺族)にも同名の料理(腌酸鱼)がある。 製法は麗江市のものと似るが主原材に裂腹鱼を用いることや陶製の壺で漬ける工程はなく、一般的な淡水魚と炊いた米を混ぜて発酵させる。
ワ族
雲南省の西南部の山岳部に居住する佤族(ワ族)は土鍋の代わりに竹筒を使用し、淡水魚の小魚に炊いた米と辣椒面(唐辛子粉)を加えて発酵させた料理がある。
ギャラリー
社会・時事
- 2021年:腌酸鱼が麗江市の十大名物料理の一つに選ばれる。