アイスランドの海藻類
アイスランドの海藻類(アイスランド語:þörungur/Þang og þari)は、アイスランドの歴史において古い時代に利用されていた海藻、および現行で利用されいている海藻類の他、新たに食用に適する海藻や医学などの幅広い活用の可能性を含む。
概要
アイスランドでは、ソル(Söl)が代表的だが、日本で食用(特定地域の食用種を含む)とされている海藻類と学名的に同目、または同属の海藻類が多く生息している。 たとえ、学名(目・科・属)的に異なっていても、昆布、ワカメ、海苔、アオサ、ヒジキ、フノリ、アカモク、モズク、その他の食用海藻類と同様に機能する多くの海藻類が存在する可能性を秘めている。
日本は、100種類以上の海藻を食用とする世界随一の国と称されているが、実態は特定の決まった海藻類が一般的となっており、もはやその面影はない。 アイスランドの人々は自然と常に共生している。 アイスランドでは元来、海藻は古くから重要な食糧源であり、さらに海藻を多く知る日本に着目し、次々と新たな食用種を発見して利用している。 実質的には世界随一の国はアイスランドであると言っても過言ではない。 また、必然的に成りえる国であり、人々にはそのスピリッツがある。
海藻採り
海藻類
真正紅藻綱
ダルス目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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ソル (Söl) |
ダルス (Palmaria palmata) |
ダルス科ダルス属。アイスランドの食用海藻類として最も知名度が高い。通常は乾燥品でそのままスナック感覚で食すのが一般的。海藻採りの場合はその場で生で味わうのが美味の極み。 | |
(Kólgugrös) |
ホソベニフクロノリ (Devaleraea ramentacea) |
ダルス科ホソベニフクロノリ属。 |
※ダルスは、日本一の昆布生産量を誇る北海道(道南)函館市の旧・南茅部町(みなみかやべちょう)地域で水揚げされ、利用および販売もされている。
スギノリ目
※日本で一般的に食用として知られるフノリ(フノリ科フノリ属)やトサカノリ(ミリン科トサカノリ属)もスギノリ目である。茨城県沿岸部から千葉県の銚子市、九十九里海岸の地域にかけて、コトジツノマタ(スギノリ科ツノマタ属)を寒天状にした “ かいそう ” や “ 飯沼こんにゃく ” と呼ばれる伝統料理があり、正月料理には欠かせない。銚子市のスーパーでは通年で販売されている。この食文化は千葉県南部にも広がり、従来の量では賄いきれなくなったため、同属のイボツノマタも代用されるようになった。コトジツノマタは “ 本かいそう ” 、イボツノマタは “ 新かいそう ” と呼ばれる。宮崎県・日南海岸の地域では、トゲキリンサイ(ミリン科キリンサイ属)を寒天状にして味噌漬けにした伝統料理 “ むかでのり ” がある。トゲキリンサイは台湾北部では “ 涼拌蜈蚣菜 ” などの料理で定番の食材となっている。
イギス目
※日本では、エゴノリ(イギス科エゴノリ属)、ユナ(フジマツモ科ヤナギノリ属)などが食用とされている。エゴノリを原料とした「いぎす豆腐」は日本各地の郷土料理として見られるが、その中で愛媛県今治市が伝統部門として、2021年(令和3年)に文化庁「100年フード」に認定された。
イタニグサ目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Sjóarhrís) |
ランドレディズ・ウィッグ (Ahnfeltia plicata) |
イタニグサ科イタニグサ属。寒天の原料、食品加工や菌類の培地に使用される。 |
※日本では戦前、樺太(北方領土)産のイタニグサを使った細寒天を製造し、従来の寒天にはない食感が好まれ、通称 “ イタニ寒天 ” と呼ばれた。戦後はロシア(旧ソビエト)がこの海藻を使って寒天を製造している。当時、日本は寒天の製造技術などにおいて世界随一であり、輸出国でもあった。この技術を無償で欧米に提供した日本政府の在り方に寒天産業の先人たちは憂いたという。今日では立場が大きく逆転しており、諸外国は寒天を自国で製造している。また、日本では海外から原材料を輸入して作られるようになった。日本の従来の寒天は、エゴノリ(イギス目イギス科エゴノリ属)とオゴノリとも呼ばれるテングサ(テングサ目テングサ科)を主体として作られたが、海外ではイタニグサが主流である。
マサゴシバリ目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Djúpbúi) |
なし (Lomentaria clavellosa) |
フシツナギ科ロメンタリア属。 |
ユカリ目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Ránarkambur) |
シー・コーム (Plocamium lyngbyanum) |
ユカリ科ユカリ属。 |
ヒメウスギヌ目
※アイスランドで新種とされたベニスナゴ科ベニスナゴ属の海藻は、日本の北海道東岸から千島列島に生息するベニスナゴ類の近縁種であることが確認された。研究者たちは太平洋に生息するものと極めて近いものが、なぜ大西洋北部に定着したのかという疑問に突き当たっている。アイスランドで食用とされているミンククジラは、日本では秋に北海道(道東)の釧路沖などにエサを求めてやってくるため、アイスランドに生息するクジラと同定することは出来ないが、回遊するクジラによって移入された可能性が高い。
サンゴモ目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Kóralþang) |
サンゴモ (Corallina officinalis) |
サンゴモ科サンゴモ属。炭酸カルシウムを約90%蓄積し、硬質に石灰化する特性があるため、石灰藻ともよばれる。 |
ハパリディウム目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Vörtukórall) |
キタエダイシモ (Lithothamnion glaciale) |
ハパリディウム科ボレオリトタムニオン属。 | |
(Vörtukórall) |
マレル (Phymatolithon calcareum) |
ハパリディウム科アッケシイシモ属。 |
※ハパリディウム目はサンゴモ目に属していたが、後に分けられた。サンゴモと外観は異なるが性質は同じである。アイスランドでは、これらを原料としたカルシウムを乳性飲料、豆乳などの植物性ミルクのカルシウム補強のために利用している。また、ヨーロッパでも同様に利用されてきた。近年、欧州連合(EU)は飲料への添加を禁止したが、健康食品として粉末は流通している。他では農作物の肥料に使われる。
ベニマダラ目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Fjæreblod) |
ベニマダラ (Hildenbrandia rubra) |
ベニマダラ科ベニマダラ属。海岸付近の石や岩壁の岩肌に発生する。地衣類に似るが海藻である。 |
アクロカエティウム目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Rauðló) |
なし (Rhodochorton purpureum) |
アクロカエティウム科ロドコルトン属。 |
褐藻綱
コンブ目
※アイスランドのゴヘイコンブ属と同属の海藻は日本の北海道の東部から千島列島にかけて生息する。食用は可能だが、日本では利尻・羅臼・日高などの名だたる昆布が主流なため、市場価値はなく、一般的に流通することはない。アイスランドのアイヌワカメ属と同属の海藻は、北海道では “ チガイソ ” と呼ばれ、ワカメと同じ用途で利用されている。
ヒバマタ目
※種によっては、生鮮や軽く湯通しした葉と胞子を刻めば “ アカモク ” のような粘りを生み出す食材になる。茎と胞子を刻んで “ メカブ ” のように利用することも可能である。これらのタイプの多くは “ 海藻とろろ ” が作れる海藻類である。日本であれば、炊き立ての白飯にかけて醤油や出汁を回して “ とろみ ” のある海藻と共に口へかきこみ、その喉ごしも味わえる一品。
シオミドロ目
※日本の地域によって食されているハバノリ(カヤモノリ科セイヨウハバノリ属)、一般的に食用とされているモズク(ナガマツモ科モズク属)もシオミドロ目である。
イソガワラ目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Flaga) |
イソガワラ (Ralfsia fungiformis) |
イソガワラ科イソガワラ属。キノコのような形状が特徴。 |
※日本で食用とされているマツモ(イソガワラ科マツモ属)と見た目は大きく異なるが、同じ科である。マツモは主に三陸沿岸部(岩手県・宮城県)の地域で様々な調理法で利用されている郷土食材。
ツルモ目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Skollaþvengur) |
ツルモ (Chorda filum) |
ツルモ科ツルモ属。アイスランドでは古くは食用や畑の肥料として使われていた。日本では石川県の能登半島・輪島市の郷土食材として有名である。 |
チロプテリス目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Lóþvengur) |
ファーリー・ロープ・ウィード (Halosiphon tomentosus) |
ハロシフォン科ハロシフォン属。束になるとツルモに似る。 |
ウルシグサ目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Kerlingarhár) |
ウィッチズ・ヘア (Desmarestia aculeata) |
ウルシグサ科ウルシグサ属。 |
ウシケノリ綱
ウシケノリ目
※ウシケノリ綱に分類される海藻は、昆布のように出汁を本位とした海藻ではなく、一般的に食用に適した海藻群である。日本ではその中でもアマノリ属の利用が多い。古くの伝統的な海苔(アサクサノリ)は、ベニタサのような赤紫色やアオサのような緑色の藻類が混じると品質の等級が低くなり、献上品や贈答用、料亭などに卸す商品として不向きなものになる。これを海苔職人の世界では “ アオが飛ぶ ” と呼び、純度を高めるための選別に懸命であった。現在でも伝統的な食材を重んじる日本料理や寿司においては一級品を尊ぶ。選別をしないものは “ 青飛び ” や “ 一番摘み ” などの名称で、庶民向けや商業的飲食店の業務用の海苔として流通している。ただし、ベニタサをは単独で日本料理(酢の物・吸物)や中華料理(炒め物・スープ)に用いた場合、客人を十分に楽しませる食材である。普通の味噌汁にしても好まれる。
アオサ藻綱
アオサ目
※日本でタコヤキなどに振り掛ける庶民的な “ 青のり粉 ” の原材料には、アナアオサ(アオサ属)、ボタンアオサ(アオサ属)が主に使われる。一方、高級青海苔とされるのは、徳島県・四万十川産のスジアオノリ(アオサ属)をはじめ、ヒラアオノリ(アオサ属)、ウスバアオノリ、ボウアオノリ、ヒメアオノリである。日本では、これらの海藻は天然のボウアオノリ、ヒメアオノリなどを除いて、ほどんどが養殖されている。
ヒビミドロ目
※日本で食用とされているヒトエグサ(カイミドリ科ヒトエグサ属)は食用としての歴史は古いが、通称 “ アオサ ” の名称で定着しており、商品名としても流通しているため、海藻名と誤認したり、一般的にタコヤキ、お好み焼き、焼きそばに振り掛けるような “ 青のり ” の原料であるアオサ目アオサ属と混同されるが異なる。実際にはヒトエグサも粉末加工され、同じ用途やフリカケなどの材料として利用されているが、それ以外の料理食材としても幅広い。三重県が主要な生産地となっており、他に愛知県、熊本県、長崎県(五島列島を含む)、鹿児島県(奄美地方を含む)、沖縄県で養殖が行われている。沖縄では “ アーサ ” と呼ばれる郷土食材である。日本で最も庶民的で身近なものは “ 海苔の佃煮 ” であり、エゾヒトエグサ(カイミドリ科ヒトエグサ属)、シワヒトエグサ(ヒビミドロ科シワヒトエグサ属)が主に使われる。広く知られている “ ごはんですよ ” もヒビミドロ目のヒトエグサ類が原材料である。
シオグサ目
※同属で淡水域に生息するカモジシオグサ(学名:Cladophora glomerata)は、中国・雲南省のタイ族で食用とされ、ラオス北部のメコン川流域やルアンパバーン郡ではカイペーンと呼ばれるスパイシーな “ 味付け海苔 ” がある。
海岸生地衣類
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
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(Grænsverta) |
なし (Verrucaria mucosa) |
ユーロチウム菌綱アナイボゴケ目アナイボゴケ科アナツブゴケ属。海藻類のベニマダラと同じように海岸付近の石や岩壁の岩肌に発生するが地衣類である。ベニマダラも地衣類に似ている。※参考表記 |
加工品
画像 | 現地名 | 一般名 | |
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ソル (Söl) |
ダルス (Dulse) |
ダルス属の紅藻類。アイスランドの代表的な海藻として最も知られている。通常は乾燥品。そのままスナック感覚で食すのが一般的。 | |
(Þurrkaður beltisþari) スールカズル・サリ (Þurrkaður þari) |
乾燥昆布 (Kansou Konbu) ドライド・コンブ (Dried Kombu) |
2013年、デンマーク、ノルウェー、スペインへ乾燥昆布(カラフトコンブ)の試験輸出を開始した。不要な仲介業者を一切排除し、高品質なものを良心的な価格でレストランへ直接販売している。 | |
コンブキャビア (Kombu Caviar) |
ケルプキャビア (Kelp Caviar) |
コンブ目ゴヘイコンブ科ゴヘイコンブ属の海藻が原料に使われる。さまざまな色彩とフレイバーがある。 | |
サングスケッグ (Þangskegg) |
シー・トリュフ (Sea Truffle) |
イギス目フジマツモ科イトグサ属の海藻。 | |
シヤゥバル・トゥルッフル・サルト (Sjávartrufflusalt) サルト・オグ・サングスケッグ (Salt og þangskegg) |
シー・トリュフ・ソルト (Sea Truffle Salt) |
サングスケッグを使った塩。 | |
サラサルト (Þarasalt) |
シーウィード・ソルト (Seaweed Salt) |
海藻塩。 | |
ソル・ブレンニヴィン (SÖL Brennivín) ソル・アゥカヴィティ (SÖL Ákavíti) |
シーウィード・アクアビット (Seaweed Akvavitt) |
海藻料理
以下は、アイスランドの伝統的な食用海藻である『 ソル 』とは別に、新たな食用海藻類の一部の利用法であり、レストランで提供されている海藻料理の一例である。 実際には「キノコ狩り」「山菜採り」「果実摘み」と同様に「海藻採り」を行う個人や仲間内、家庭では、より多くの海藻類を思いつく限りの調理法や保存法で利用し、その多様性に富む。
- 干し昆布のオイスタープラント添え。:アイスランドには日本の昆布と同じコンブ目の海藻が生息している。それらを自然環境を利かして低温乾燥(寒風干し)したものが基本的で市販品も同様である。日本の “ おしゃぶり昆布 ” よりもドライでクリスピーなもので、口に含んで咀嚼した後の昆布の粘りを味わう。レストランではさらに素揚げすることもある。
- 昆布の天ぷら:日本の出汁昆布のような厚葉ではなく、食べやすい薄葉のゴヘイコンブの一種の天ぷら。ブレンニヴィンの特製の天つゆで提供するレストランもある。
- 海苔の前菜:日本の “ 焼き海苔 ” とは異なり、きめ細かく粉砕してから乾燥、または加熱してシート状に仕上げたもの。磯と潮の風味を味わえる。その他、料理のデコレーションやデザートの甘味と塩味の相互性や相性(マリアージュ)を楽しめるように添えられる。
- 海苔巻き:アイスランドで寿司を提供するレストランは、日本の海苔で巻き方も同様のスタイルが多いが、独自の楽しい “ 海苔巻き ” もある。
- 海藻サラダ:
- ワカメの味噌汁:アイスランドでは “ ワカメ ” という呼び名は知られており、学名的に同じ科の海藻が生息している。提供するレストランもあるが、冒険心や興味本位ながらも、日本同様に家庭や個人で気兼ねなく作る人の方が多い。日本でも味噌を必要としない “ワカメスープ ” があるように、アイスランドの通常のスープや料理においても親和性のある海藻類の一つである。
- コンブキャビア:ゴヘイコンブの種を原料としたキャビアの模倣品。前菜の一つとして観光系レストランで見られるが一般的ではない。