蒸し料理(食道楽)

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オムレツソフレー

オムレツソフレー(おむれつそふれー)は、明治36年(1903年)に村井 弦斎(むらい げんさい:1864年1月26日・文久3年12月18日 - 1927年・昭和2年7月30日)の小説『食道楽』「秋の巻」に登場する料理である。

註譯

○本文のオムレツはオムレツソフレーと称となう。普通のオムレツは玉子へ塩胡椒を入れて能よく掻き混ぜ強火にて中身は半熟表面は薄こげの加減に焼くなり。ただし鍋の中にて能く掻き混ぜねばならず一人前に玉子二個の分量にし中へ生のトマト二個の皮を去り細かに切りて混ぜ合せ焼くもよし。

○魚のオムレツは何魚にても油の少なき軽きものを湯煮て細かにむしり前法の如く玉子へ混ぜて焼くなり。また湯煮たる魚を裏漉しにしオムレツソフレーの中へ混合せて焼きてもよし。

第二百八 蒸し料理

 玉江嬢「ハイそれも試してみましょう。先生田舎の人なんぞは病気になった時お医者に牛乳を飲めと勧められても厭いやがって飲まない人が沢山あります。 そんな人に牛乳料理を美味おいしく食べさせる工風くふうがありましょうか」お登和嬢「ハイありますとも、私もよくそういう人に牛乳料理を拵こしらえて食べさせました。 道具のない田舎や山の中で手軽に出来るのは手軽なカスタープデンといって牛乳と玉子の蒸物が一番軽便ですね。 それは玉子二つへ牛乳一合と砂糖を大匙二杯と少しずつ混ぜながら入れて箸はしでよく掻かき廻まわしてドロドロにしたものを茶碗蒸ちゃわんむしの茶碗なら上等ですしあるいは御飯の茶碗へ入れて冠かぶさるほどの皿を蓋ふたにしてもようございます。 最初から気短に玉子と牛乳を一度に混ぜるとツブツブになっていけません。 少しずつ混ぜて拵えておいて釜かまの中へ少し水を入れて今の茶碗を三つでも四つでも置いて重い蓋を釜へ載せておよそ二十分位蒸します。 その時蓋を取ってカステラの時のように細い箸を中央まんなかへ通してみれば出来ない時はネバったものが着いて来ます。 それがつかなければモー出来上ったのです。 こうして食べさせるとどんなに牛乳の嫌いな人でも美味しいといって悦よろこびますよ。 それをモー一層美味しくするのは南瓜とうなすを蒸すかあるいは湯煮ゆでて裏漉うらごしにして好い加減と思うほど今の物へ混ぜて肉桂にっけいの粉を加えて蒸すのです。 肉桂の粉は南瓜の味を出します。 しかしなくっても構いません。 これが手軽な南瓜のプデンです。 その外に今のカスタープデンへ御飯を混て蒸せばライスプデンになります。 薩摩芋を湯煮て裏漉しにして肉桂の粉を加えて今のプデンへ混ぜても結構です。 ジャガ芋と肉桂でもよし、栗の湯煮たのを裏漉して混ぜると大層美味しくなります。 饂飩うどんや素麺そうめんの湯煮たのを二、三十本混ぜて蒸しても洒落しゃれていますし、米の粉を大匙二杯ばかり入れて蒸しても美味しいものが出来ます。 パンを水に漬つけて絞って混ぜてもようございます」と軽便料理も種類多し。玉江嬢面白がり「その外にオムレツなんぞはどんな田舎でも出来ますね」お登和嬢「ハイ出来ますとも。 玉子の黄身へ塩を少し加えてよく掻かき混まぜて別に白身を雪のように泡立てて泡の消えないように軽く黄身を交ぜて鍋へ油を敷いてその中へ流し込む時箸の先かあるいは匙で上面うわかわを拡げて鍋一杯にして両端を畳たたみ込んで打返して焼けばそれでいいのです。 モット柔やわらかにしようと思えば牛乳を黄身の方へ少し加えますが白身さえ充分に泡立っていれば牛乳を加えないでもフクフクしたオムレツが出来ます」玉江「では玉子ばかりのオムレツですね」お登和「勿論、オムレツは玉子ばかりのもので肉や葱ねぎを入れたのは肉入オムレツです。 あるいはジャムとか菓物くだものの煮たのを入れてもよろしゅうございます。 肉や葱を入れたければ細かく刻んで一度煮たものを今の中へ巻き込むのです」玉江「上等の家庭料理にするとオムレツはどんな風ふうですか」お登和「家庭料理のオムレツは玉子ばかりで塩の外に少し唐辛とうがらしの粉が入りまして油はサラダ油か上等のバターを使いますが掛汁が唐辛と赤茄子あかなすのソースです。 それは最初鍋で大匙一杯のバターを溶かしてコルンスタッチ即ち玉蜀黍もろこしの粉一杯をいためてその中へ壜詰びんづめの赤茄子ソースと牛か鳥のスープを加えて塩と唐辛の粉を混ぜたものです。 暑い時分には唐辛が好いと申して折々この料理が出ます」玉江「何故なぜ暑い時には唐辛が好いのでしょう」

『食道楽』秋の巻・第二百八

参考文献

  • 『食道楽』:明治三十六年(秋の巻・第二百八)・村井 弦斎