アイスランドの野草類

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Icelandic Wild Herbs - Villtar jurtir.png

アイスランドの野草類(Villtar jurtir:ヴィルタル・ユスティル)は、アイスランドに自生する野草類および薬草類である。 また、アイスランドにおけるメディカルハーブ(薬用植物)の一種として樹木類も表記した。

概要

アイスランドでは入植時代から多くの野草類をさまざまな方法で利用してきた。 その植物類の一覧である。

野草類

セリ目

画像 現地名 一般名(学名)
Angelica archangelica - Garden Angelica.png
(Ætihvönn)
セイヨウトウキ
Angelica archangelica
セリ科シシウド属。伝統的な薬用植物の一つで鎮痛剤や鎮静剤、壊血病に効果があり、呼吸器系の粘液を促し、喘息に効果があると考えられている。
Angelica sylvestris - Wild Angelica.png
(Geithvönn)
ワイルド・アンジェリカ
Angelica sylvestris
セリ科シシウド属。セイヨウトウキと同様の効能はあるが効果は劣るとされる。

※セイヨウトウキ(ゴールデン・アンジェリカ)を含む、これらのアンジェリカは、ヨーロッパでも伝統的な薬草として利用されてきた。セイヨウトウキの根や種の粉末は、煎じ薬(ハーブティー)として利用される。茎は、砂糖漬け(クリスタル・アンゼリカ)としてケーキの飾りつけ等に、葉は、魚料理や果物の風味付けに用いる。また、種子はリキュールの香味付けに用いられる。他には、種子を蒸留して抽出したエッセンシャルオイルは、ムスク(麝香:じゃこう)の代用として香水の原料にも利用される。

ナデシコ目

画像 現地名 一般名(学名)
Silene acaulis - Moss Campion.png
(Lambagras)
コケマンテマ
Silene acaulis
ナデシコ科マンテマ属。根は硬いが食用とされ、水や牛乳でやわらかく煮た粥は空腹を満たす上で人々の重要な食糧源となった。他の食材とバターで炒めて付け合わせにもなる。
Armeria maritima - Sea Thrift.png
(Geldingahnappur)
ハマカンザシ
Armeria maritima
イソマツ科アルメリア属。根は硬いが古い時代は宮殿で食されていた。また、食糧難の時は人々の重要な食糧源となった。花から蜜を吸ったり、少女が花冠を作り、頭に付けるのは珍しくない。
Rumex acetosa - Common Sorrel.png
(Túnsúra)
スイバ
Rumex acetosa
タデ科スイバ属。浮腫(むくみ)に非常に効果があり、肝臓を強化するとされる。他には、食欲不振、便秘、痔、壊血病などに効果がある。葉は酸味があり、粥やサラダなどで食される。
Rumex longifolius - Northern Dock.png
(Njóli)
ノダイオウ
Rumex longifolius
タデ科スイバ属。活力を与える強壮効果、血液浄化、虫歯予防、下剤、利尿、鎮静作用があるとされる。葉の煎じ薬は下痢、肝臓病、便秘、壊血病、ハンセン病、敗血症に良いとされる。
Rheum rhabarbarum - Rhubarb.png
(Rabarbari)
ルバーブ
Rheum rhabarbarum
タデ科ダイオウ属。中国原産の薬用植物で14世紀にヨーロッパで栽培を開始した。アイスランドに自生する帰化植物で春と秋の年に2回収穫できる。畜産農場の余った土地で栽培も行われている。

アブラナ目

画像 現地名 一般名(学名)
Cochlearia officinalis - Common Scurvy Grass.png
(Skarfakál)
キョクチトモシリソウ
Cochlearia officinalis
アブラナ科トモシリソウ属。サラダ、スープに利用されるだけでなく、古くはミーサに漬けて冬の保存食とし、大麦や小麦粉と牛乳、スキール、ミーサなどと一緒に粥にも使用された。
Cakile maritima - European Searocket.png
(Fjörukál)
ヨーロピアン・シーロケット
Cakile maritima
アブラナ科オニハマダイコン属。葉は多肉質で根も含めて食用。キョクチトモシリソウと用途や保存法は変わらない。1783年に発生したラキ火山の際には南部の住民を救った栄養源でもある。

※カル(Kál)は “ キャベツ ” を意味する。これらはビタミンCを多く含み、それを摂食していたことで壊血病がそれほど蔓延しなかったとされる。塩を使わずにミーサ(乳清やホエイとも呼ばれる)を利用する保存法は伝統的なスールマートゥルに残っている。今日では壊血病に陥る人々はいないが、料理人や家庭ではビタミンC、ヨウ素、キャベツの風味を持つ食材として再び注目され、利用されている。

バラ目

画像 現地名 一般名(学名)
Argentina anserina - Common Silverweed.png
(Tágamura)

(Silfurmura)
ヨウシュツルキンバイ
Argentina anserina
バラ科アルゲンチナ属。古くから広く知られている薬用植物で、根、茎、葉、種子のすべての部分が利用された。活力を与える強壮効果、発汗作用、駆虫作用があるとされ、下痢、出血、痛風に利用されてきた。葉は煎じ薬、根は粥が主。

※第二次世界大戦中、ドイツではひどい月経痛の薬として、根と葉を粉末にしたカプセルを販売していた。体の筋肉をリラックスさせる筋弛緩作用もある。

ユキノシタ目

画像 現地名 一般名(学名)
Rhodiola rosea - Roseroot.png
(Burnirót)

(Blóðrót)
イワベンケイ
Rhodiola rosea
イワベンケイ科イワベンケイ属。β-エンドルフィンの分泌を刺激する薬理作用をもち、精神安定させ、ストレスを和らげるとされる。ボイルして食される。

※今日ではアイスランドの高麗人参と称され、強力な老化防止薬と考えられている。日本では標高が高いエリアのみで見られる。他国では高山病などに用いる。

キキョウ目

画像 現地名 一般名(学名)
Campanula rotundifolia - Common Harebell.png
(Bláklukka)
イトシャジン
Campanula rotundifolia
キキョウ科ホタルブクロ属。根は甘味があり、食用となる。他に繊維の染色にも利用されていた。

※キキョウ類は主にアジアに生息するため、非常に珍しい。キキョウの根は、中国医学の漢方で、日本でも古くから生薬とされる。韓国ではトラジと呼びキムチなどに利用される。

シソ目

画像 現地名 一般名(学名)
Pinguicula vulgaris - Common Butterwort.png
(Lyfja­gras)
ムシトリスミレ
Pinguicula vulgaris
タヌキモ科ムシトリスミレ属。食虫植物の一種。チーズを作る上で牛乳を凝固させるために使われた。軟膏は、発疹、炎症、ひび割れ、古傷に使用された。葉の煎じ薬はハゲの予防に良いとされた。
Thymus praecox - Wild Thyme.png
(Blóðberg)
ワイルド・タイム
Thymus praecox
シソ科イブキジャコウソウ属。タイムの一種。
Thymus praecox ssp. britannicus - Wild Thyme.png
(Blóðberg)
ワイルド・タイム
Thymus praecox britannicus
シソ科イブキジャコウソウ属。ワイルド・タイムの亜種。

※ワイルドタイムは通称 “ アイスランドのタイム ” または “ 北極のタイム ” と呼ばれる。こだわりのシェフたちは自ら採取し、料理に用いる。酒類のアンジェリカ・ジンの原材料としても使われる。

樹木

ブナ目

画像 現地名 一般名(学名)
Betula pubescens - Downy Birch.png イルムビョーク
(Ilmbjörk)
ビルキ
(Birki)
ヨーロッパダケカンバ
Betula pubescens
バラ類ブナ目カバノキ科カバノキ属。シラカバ(白樺)の一種で一般的には通称ビルキと呼ばれる。
Betula pubescens - Birch Leaves.png ビルキラウフ
(Birkilauf)
ヨーロッパダケカンバの葉
(Birch Leaves)
葉は色が黄色に変わる前の緑葉が良いとされる。さまざまな民間療法があるが、ハーブティーが手軽で一般的である。お茶用の乾燥葉の他にジュースも市販されている。
Betula pubescens - Birch Sap.png ビルキサーヴィ
(Birkisafi)
ヨーロッパダケカンバの樹液
(Birch Sap)
樹液の採取は年に一回、4月中旬~5月中旬までの一ヶ月間のみ。アイスランド南西部のハウカダールの広大な森林地帯が主な採取地。主にシロップや酒類の醸造に利用されてきた。

※ヨーロッパダケカンバの葉は、血液浄化剤と考えられており、体内の余分な水分を排出する利尿作用があるため、腎臓病の治療に使用される。他にリウマチ、痛風などの関節炎、傷などの外部治癒、湿疹や乾癬などの皮膚疾患などにも幅広く利用されている。 また、樹液は葉と同様に健康に良いと考えられている。血圧を安定させる効果、腎臓への負担を軽減させる作用、他に抗炎症作用や血液浄化作用など、健康に有用なさまざまな物質が含まれているとされ、ガンとの闘いにも役立つとされている。これまで樹液を含んだ食品は、シロップ、酒類などであったが、2010年に初めてジュースが商品化された。味はスイカに似ており、アイスクリームに用いた場合、味に最適な結果をもたらしたことから商品化に向けて開発が進められいる。

マツ目

画像 現地名 一般名(学名)
Picea sitchensis - Sitka Spruce.png シトカグレン二
(Sitkagreni)
グレン二
(Grení)
シトカトウヒ
Picea sitchensis
マツ綱マツ目マツ科トウヒ属。アイスランドで最も一般的な林業樹木の一つ。高樹木のためクリスマスツリーには不向きとされるが利用価値は高く、庭木とする人々もいる。
Picea sitchensis - Spruce Shoots.png グレンニスプロータ
(Grenisprotar)
トウヒの新芽
(Spruce Shoots)
民間療法などで古くから利用されてきた。主にシロップに利用される。針葉が硬くなる前の新芽は軟らかくサラダとしても食用が可能である。レモンの風味が特徴でビタミンCを豊富に含む。
Pinus contorta - Lodgepole Pine.png スターファフラ
(Stafafura)
コントルタマツ
Lodgepole Pine
マツ綱マツ目マツ科マツ属。アイスランドで最も利用されている林業樹木の一つ。クリスマスツリーに適しているとされ、庭木としても人気が高い。
155px コングル
(Köngull)
松ぼっくり
(Pinecone)
木質になる前の緑の松ぼっくり(松笠)は、お茶やジャムに利用する。これはアイスランドに限らず、ロシアを含む寒冷地域で見られる。ほとんどが個人で採取し、自家消費として利用される。

※トウヒの新芽はレストランで供されるのは少ないが、食用とするのはアイスランドだけではなく、ノルウェー、カナダなどの寒冷地域でも見られる。日本でも松葉は松葉茶として利用されている。

ギャラリー

  • ラーバルバルアスルタ:ルバーブのジャム。アイスランドの代表的なジャムでピザにも添えられる。新たにバニラの風味を加えたものは、2014年のフードコンテストで金賞を受賞した。
  • ラーバルバルアグロイトゥル:ルバーブの粥。アイスランドの粥は甘いデザート仕立て。
  • ラーバルバルアグラニータ:ルバーブのグラニテ。グラニテはシャーベットのようなもの。
  • ルバーブ・ビターズ:ルバーブを酒に漬け込んだリキュール。市販品の他、家庭やBARなどでも自家製で作られる。
  • ビルキテー:ヨーロッパダケカンバのハーブティー。
  • ビルキサーヴァ:ヨーロッパダケカンバの葉のジュース。
  • ビルキサーヴィ:ヨーロッパダケカンバの樹液のジュース。
  • ビルキシーロプ:ヨーロッパダケカンバのシロップ。原材料は樹液と葉、砂糖のみで添加物は不使用。
  • ビルキル:ヨーロッパダケカンバのシュナップス。
  • ビョーク:ヨーロッパダケカンバのリキュール。
  • グレン二シーロプ:シトカトウヒの新芽のシロップ。
  • アンジェリカ・ジン:アイスランド最古の蒸留所で作られるジン。国内で採れる野生植物が使われている。

関連項目