アイスランドの地衣類

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アイスランドの地衣類

アイスランドの地衣類(アイスランド語:Fléttur /日本語:ちいるい)は、アイスランドに自生する地衣類である。 地衣類は菌類の一種で、藻類(主に緑藻とシアノバクテリア)と必ず共生する生態系をもつ複合体である。

概要

『植物の構造と生態』1906年

フリィエットゥル(Fléttur)とは、アイスランド語で地衣類を指す。 この言葉は、1906年に出版された植物学者のヘルガ ・ヨンソン(Helga Jónssonar:1867~1925年)の著書『植物の構造と生態』(Bygging og Líf Plantna)で初めて登場し、定義されたことで用いられている。 それまで一般の人々は地衣類と蘚類(せんるい)に分類されるコケ類を区別していなかったため、これらを総称して “ コケ ” (モゥシ:Mosi)と呼んでいた。
これは地衣類のハナゴケ(Hreindýramosi)やミヤマカラクサゴケ(Litunarmosi)、蘚類のミズゴケ属(Barnamosi)などの一般名として今日も残っている。

フリィエットゥルという呼称は植物(菌類界)の分類学上で用いられるが、一般的には “ 三つ編み ”(Fléttur)を意味する言葉でもある。 一般の人々には、 “ 山草 ”(フィヤトラグラッサ:Fjallagrasa)、または単に “ 草 ”(グラッサ:Grasa) と呼ばれることが多い。

歴史

草旅行とルール

地衣類をついばむ冬のトナカイ

アイスランドではキノコ狩りと同様に地衣類狩りのようなものがある。 これは通称、草旅行(Grasaferðir)と呼ばれ、家族ではピクニック、仲間内や集落の人々などで行われる遠足、ハイキングを兼ねるレジャーと食糧確保という重要な目的を包括し、次のシーズンまで備蓄するために伝統的に行われてきた。 地衣類は採取するサイズに達するまで年月を要するため、一度採取した場所で再び採取することは御法度である。

日和は、雨が降った後や翌日、または濃霧などで朝露などが発生した後の方が、地衣類の表面の汚れが綺麗になり、下処理の手間が少なくなるため、適しているとされる。 採取シーズン外の冬季でも霜や雪によって自然乾燥した状態で見られることもあり、それ以外にも雪を掘り起こしたりすれば採取は可能であるが、これらは野生動物が越冬する上での重要なエサとなる。 極寒の中、地表の地衣類、樹木や岩肌の地衣類を捕食して越冬するトナカイはアイスランドの伝統的な食材である。

伝統的な利用と有用性

『さまざまな著者によるアイスランドのハーブの有用性に関する小さな論文』1880年

1880年に出版された園芸家のジョン・ヨンソン(Jón Jónsson)による資料収集および著書『さまざまな著者によるアイスランドのハーブの有用性に関する小さな論文』(Lítil ritgjörð um nytsemi nokkurra íslenzkra jurta eptir ýmsa höfunda)は、アイスランドに生息する薬草や地衣類の有用性をまとめた古い手引書として、今日も知られている。

地衣類

チャシブゴケ目

画像 現地名 一般名(学名)
Cladonia rangiferina - Gray Reindeer Lichen.png
(Hreindýramosi)
ハナゴケ
Cladonia rangiferina
ハナゴケ科ハナゴケ属。アイスランド語で “ トナカイのコケ ” を意味する。トナカイが越冬するためのエサの90%が本種である。
Peltigera aphthosa - Freckled Pelt Lichen.png
(Engjaskófir)
ヒロハツメゴケ
Peltigera aphthosa
ツメゴケ科ツメゴケ属。
Peltigera leucophlebia - Ruffled Freckled Pelt Lichen.png
(Dílaskóf)
ヒロハツメゴケモドキ
Peltigera leucophlebia
ツメゴケ科ツメゴケ属。
Umbilicaria proboscidea - Greater Salted Rocktripe Lichen.png
(Geitanafli)
ミヤマコゲノリ
Umbilicaria proboscidea
イワタケ科イワタケ属。日本の超高級食材で絶壁を登攀して採取するイワタケと同属。採取できるサイズになるまで長い年月を要する。
Cetraria islandica - Iceland Moss.png
(Fjallagrös)
エイランタイ
Cetraria islandica
ウメノキゴケ科エイランタイ属。欧州医薬品庁の植物性医薬品委員会(HMPC)は一時的な食欲不振の改善、口や喉の炎症やそれに伴う空咳の治療、鎮静剤としての効果を認定している。
Flavocetraria nivalis - Crinkled Snow Lichen.png
(Maríugrös )
コガネエイランタイ
Flavocetraria nivalis
ウメノキゴケ科コガネエイランタイ属。日本では北海道の大雪山系にのみ見られる。
Parmelia saxatilis - Salted Shield Lichen.png
(Snepaskóf)

(Litunarmosi)
ミヤマカラクサゴケ
Parmelia saxatilis
ウメノキゴケ科カラクサゴケ属。アイスランド語で “ 染色(塗り絵)のコケ ” を意味する。
Parmelia sulcata - Shield Lichen.png
(Hraufuskóf)
コフキカラクサゴケ
Parmelia sulcata
Parmelia omphalodes - Smoky Crottle.png
(Litunarskóf)
イワカラクサゴケ
Parmelia omphalodes

ロウソクゴケ目

画像 現地名 一般名(学名)
Xanthoria parietina - Golden Shield Lichen.png
(Veggjaglæða)
ゴールデン・シールド・ライケン
Xanthoria parietina
ロウソクゴケ科オオロウソクゴケ属。黄色い色素には、β-カロチンやトマトリコピンと同じ働きをする化学物質のクロセチンが含まれている。

蘚類

画像 現地名 一般名(学名)
Genus Sphagnum - Sphagnum Mosses.png
(Barnamosar)

(Barnamosi)
ミズゴケ属
Genus Sphagnum
ミズゴケ目ミズゴケ科ミズゴケ属。アイスランド語で “ 赤ちゃんのコケ ” の意味。乾燥したものは非常に高い吸水性をもつため、赤ん坊のオシメ代わりとしてベビーベットに敷いて利用された。

※地衣類ではなく、蘚類(せんるい)に分類されるが、それ以前に “ コケ ” (Mosi)として同様に利用されていたものとして表記した。ミズゴケ類は、欧米では負傷兵の包帯・止血に使われたこともある。

ギャラリー

  • フィヤトラグラッサグロイトゥル:地衣類のお粥。
  • フィヤトラグラッサブロィズ:地衣類を生地に混ぜたパン。
  • フィヤトラグラッサミョーク:地衣類のミルク煮。
  • フィヤトラグラッサテー:地衣類のハーブティー。野草類、シラカバなども加えられる場合もある。
  • フィヤトラグラッサ:咳止めシロップ。
  • ジャム。
  • フィヤトラグラッサブロウズモール:羊のブラッドソーセージに地衣類を加えたもの。
  • フィヤトラグラッサロストゥル:地衣類を混ぜたチーズ。地衣類は古くからチーズ作りに使われてきた。
  • フィヤトラグラッサシュナップス:地衣類の薬膳酒。アイスランドの蒸留酒は国内のビールより歴史が古い。
  • フィヤトラグラッササルト:地衣類を加えた天然塩。古い時代は塩が不足していたため、比較的新しい。調理用の他、洗顔のスクラブやボディケア用の塩もある。


関連項目