赤茄子濁羹汁
赤茄子濁羹汁(あかなすだっかんじる)は、大日本帝国海軍の海軍教育局より1918年(大正7年)に発行・配布した『海軍四等主計兵厨業教科書』に記載されている料理である。 本書では『トマト・スープ(赤茄子濁羹汁)』と記されているが、スープを意味する「羹汁」に「濁」が付くもので、他のトマトスープと区別するため、本項は赤茄子濁羹汁としている。 また、海軍における西洋料理のスープの基礎と趣旨も合わせて記述した。
特徴
海軍のスープ調整法で作られたビーフ・スープ(牛肉羹汁)をスープストックとしてベースに作られる。 また、ベースに生のトマトが加えられる。 海軍の他のトマトスープのレシピでも、ビーフスープやクレヤスープなどのコンソメタイプの清湯系(清羹汁)スープをベースに用いるが、赤茄子濁羹汁はそれらと異なり、それにバターや小麦粉を加えて調理したポタージュ(濁羹汁)である。 宮中の料理でも「清羹」はコンソメスープ、「濁羹」はポタージュを意味する。
スープ類(羹汁)
スープには、清(すまし)、濃(こい)、濁(にごり)の三種類がある。
食事の始め「スープ」を吸うはただに栄養物を得るばかりでなく、まず胃に活動力を与え食欲を増進させるに効果がある。
このように食欲を増進させる目的で出すのであるのだから、「クセ」のない甘味でなくてはならないが、余りに味が濃厚であってはならない。
ビーフ・スープ(牛肉羹汁)
材料
- 牛肉(屑肉、筋肉および頸部)
- 人参
- 玉葱
- セロリ
- 塩
- 胡椒
調理法
スープに用いる牛肉は屑肉、筋肉および頸部である。 その内、頸部は安価であってもっとも良い美味なスープが得られることが出来る。 いずれの肉を用いても二寸四方位の大きさに切り、これを深い面積の狭い鍋に入れ、肉600グラムに1リットルから2リットル位の割合で水を入れ、時々混ぜながら浮上がってくるアクを良く取って良く澄んできたころ人参、玉葱、セロリ等の屑部分を加え、塩少量と好みにて胡椒等を入れ弱火にして十分味の出るまで煮て布で濾す。 これが即ち清羹汁である。 これを供卓するには再び火にかけ上部に浮いた油を日本紙または新聞紙のようなもので吸い取らせ、塩、胡椒で風味し、少量の具を入れ皿に盛りつけて供卓する。 具の種類および作り方は次に説明する。
注意
スープを煮出すとき人参、玉葱、セロリ等を入れるのは香りを付けると同時にスープの味を良くする為である。 煮沸中に生じたアクを良く取らないとスープは濁り至って不味くなる。 ただし、スープが濁ったときは濾したあと卵の白身および殻を入れてよく撹拌して火にかけ沸騰させ、再び濾した時は清麗透明なスープが出来る。
スープの具の種類
- 玉葱は二つ割とし小口から薄く切り、一人前5、6切れを入れる。
- パセリおよびセロリの葉は極細末に切って少量を用いる。
- グリーンピースは一人前10粒づつを用いる。
- セーゴ、パーテ、タピオカ、マカロニー、ヴァーミセリもまた用いられる。
- 人参は極最小の賽の目形あるいは極細い千切りに切ったものを一寸茹でて用いる。
- 馬鈴薯の極最小の賽の目形あるいは極細い千切りに切ったもの、あるいはパンの堅い皮をとって賽の目形に切ったものを用いるときは、フライパンにヘットを沸騰させてキツネ色になるまで揚げ、新聞紙の上に載せて油を切って一人前10個位を用いる。 その揚げ物はスープ皿に盛り供卓する時に入れ、その他は皿に盛る10分位前に入れ一度沸騰させ後で供卓する。
トマトスープ(赤茄子濁羹汁)
材料
- 牛肉(屠肉、筋肉、頸部)
- 人参
- 玉葱
- トマト
- バター
- 塩
- 胡椒
- パン
調理法
第一の例(ビーフ・スープ)に基づいてスープを煮出すときに生トマトを入れ煮沸して、別の汁鍋にバター少量を入れ、これに玉葱を薄く切ったものを入れ、小麦粉少量を加え、色の付かないように煎り、それにトマトソースを加え、前に煮出して置いたスープを徐々に加えて延ばし十分に混合させ布または裏漉で無理やりに濾して滑らかにして、これを再び火にかけ、塩、胡椒で風味し、具としてパンの揚げたものを入れて供卓する。
関連項目
参考文献
- 『海軍四等主計兵厨業教科書』:第二章 調理法 第三節 西洋料理(第一 スープ類 羹汁・一)
- 『海軍四等主計兵厨業教科書』:第二章 調理法 第三節 西洋料理(第一 スープ類 羹汁・三)
- 『海軍五等主厨厨業教科書』:第二章 調理法 第三節 西洋料理(第一 スープ類 三)