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ベラドンナ

ベラドンナ（学名：Atropa belladonna）は、ナス科の多年草で中央アジアからヨーロッパ中南部原産の薬用植物。猛毒があり葉は鎮痛・鎮痙剤。魔女がこれを使って人を殺すと考えられていた。花言葉は「汝を呪う」「男への死の贈物」。

ベラドンナは、すべての部分に強い毒性があり、中でも根の部分に強い毒性がある。果実は最初は緑色で、熟すと黒くなります。中毒の原因の多くは実を食べたことによるもので、実の見た目が美しく甘味があることから、子供を持つ人に多い。子供の場合は2～5個、大人の場合は10～20個の実を食べただけで致命的になることがあります。食べてしまったと思われる場合は、すぐに医師の助けを求め、それまでの間は嘔吐剤として塩をぬるま湯で飲むようにしてください。この植物には、L-ヒオシアミン、アトロパン、スコポラミンのアルカロイドが様々に混合されており、そのため症状も様々で、瞳孔散大、光に対する感受性、目のかすみ、頻脈、平衡感覚の喪失、ふらつき、頭痛、発疹、顔面紅潮、口や喉のひどい乾燥、言葉の乱れ、尿閉、便秘、混乱、幻覚、せん妄、痙攣などがあります。また、ウサギや牛は問題なく食べられるようですが、多くの家畜には毒です。

説明

オットー・ヴィルヘルム・トーメによるアトロパ・ベラドンナの写図『Österreich und der Schweiz』1885年

植物の『アトロパ・ベラドンナ』

特徴

ベラドンナは落葉性の多年生草本で、通常、高さ50cmから1.50mに成長します。現場の条件が良ければ、高さ2メートルの標本を観察することもできます。ビートの形をした、太くなった胚軸と胚軸を含む主根が貯蔵器官となる。茶色の多枝の根は多肉質で、土の中に約1メートルまで達します。不快な臭いがします。再生芽は、多年生植物によく見られるように、根元の首の周りにあります。茎からの発根は可能ですが、独立した部分的な植物は通常成長しません。勢いのある株にはストロンが形成されます。母株が枯れても、そこから独立した株ができることもあります。全体的に見て、植物的な繁殖は、種子による繁殖に比べてまれです。

豊かに分岐した株は、元気な姿を見せてくれます。茎は直立し、細かい毛が生えている。枝分かれしているように見えるのは、その枝分かれの仕方によるものです。枝は約1メートルの高さで初めて形成される。ここで、シュートは通常、水平に突き出た3つの枝に分かれ、さらに2つのフォークに分かれます。シュートの構造は、軸と葉の間に特徴的な成長と変位があり、そのため絡み合っているように見えます。これは、花を咲かせる新芽の構造に関係しています。花の終わったシュートには、花の直下に苞葉がある。花を咲かせたシュートの大きい方の苞は、次の花で終わるサイドシュートを押し上げて、この花の苞葉の真下に来るようにします。このシフトは常に繰り返され、それぞれの花が小さな苞葉を持ち、その下に前の花の大きな苞葉が芽生えます。

枝には、短くて柔らかい突起状の腺毛が生えている。維管束は二分されており、木部の外側と内側に葉茎がある。花が咲く時期と果実が熟す時期が重なっています。このように、1つの植物で複数の発達段階を同時に観察することができるのは、ナス科の多くの実をつける種の典型的な特徴である。夏には、緑色の花芽、茶色がかった紫色の花、緑色の未熟な実、黒色の熟した実が隣り合ってできる。

葉

茎の短い葉は、長さ15cm、幅8cmほどになる。葉身は、楕円形から楕円形で、先が細くなり披針形になります。葉の縁は通常、全体的に広がっている。葉の上側は緑褐色で、葉脈は沈み込み、羽状になっていて、下側は緑がかった灰色をしている。下側は緑がかった灰色で、葉脈はこちらの方が目立ちます。若い葉には豊富な軟毛が生えているが、古い葉には通常、葉の裏側の葉脈にだけ、綿毛のような弱い軟毛が生えている。これは、多細胞の部材毛と、多細胞の湾曲した頭部を持つ長い茎の腺毛で構成されています。細胞は2列に並んでいます。表皮の細胞は、葉の上側では弱く、葉の下側では強く波打つような皮目をしています。気孔は、異所性の形をしていて、3つの付属細胞があり、そのうちの1つは明らかに小さい。

シュート上部の葉は対になって接近していますが、対になって配置されているのではなく、葉のずれにより交互に配置されています。花序部の葉が対になって接近するのは、ベラドンナの特徴と言える。基本的には、小さい葉が大きい葉と一緒に立っています。

花

雌雄同体の花は、葉の上部の腋から単発で、まれに2個、または3個の花が集まって咲く。花は横向きに咲き、長さは約3cmである。ベラドンナは八重の花弁を持つ。永久萼片は、開花時には鐘状になり、綿毛が生えている。長さの3分の2までは切れ込みが入っている。 5つの萼裂片は楕円形で、上部に向かって細くなる。細かい毛に覆われた鐘状の筒状の花冠は、外側は茶紫色で、内側は黄緑色に紫色の脈がある。また、中央ヨーロッパではまれに緑がかった黄色から淡い黄色の花を咲かせるものがあるが、これは花の色素（アントシアニン）がないためである。花には5弁のフリンジがあり、外側に向かって少し巻き込んでいる。花冠の裂片は、楕円形で丸みを帯びている。5本の雄しべは上部でアーチ状になり、基部では花冠と融合している。湾曲した雄しべの長さは、花冠の長さとほぼ同じである。上部は光沢があり、下部には軟毛がある。上昇した黄色がかった太い葯は背面に付いている。葯は縦に開き、白い花粉粒を放出する。斜方の上側の卵巣は、融合した葉（coenocarp）になっています。楕円形で、2つの融合した子房が2つのコンパートメントを形成している。子房と子房の間の隔壁は子房の軸に一致し、花の中央部に対して斜めになっている。厚い胎座の上に、多数の異形の子房が配置されている。上は緑、下は紫の糸状の雌しべは下向きで、葯の上にそびえ立っています。雌しべは下向きで葯よりも高く、頭のような形をしており、わずかに分裂して緑色をしています。ベラドンナは花蜜を提供する。卵巣の下には、肉厚の黄色いクッションのような蜜盤がある。糸状の基部から発生する長い毛は、花蜜の捕食から保護する。

花期は6～8月です。

果実と種子

ベラドンナの熟した果実と未熟な果実

果実は、未熟なときは緑色で、熟すとアントシアニンのために黒色になる。果実の構造は、小さいながらもトマトに似ている。 10～15ミリの大きさの球形の実の表面は黒く、漆のような光沢がある。熟すと果皮はジューシーで肉厚になる。果肉は青みがかった赤色をしています。 2つの果室には多数の種子が入っている。種子は、大きくなった薄黄色の胎座に付着している。萼（がく）もやや大きくなっている。萼は熟した果実を星のように取り囲んでいる。熟してジューシーになったベラドンナの果実の味は、わずかに甘く、やや苦く、わずかに渋く、口の中に毛羽立ち感が残る。果実は8月から10月にかけて熟す。種子の大きさは最大2ミリで、多かれ少なかれ平たく、丸みを帯びた形からわずかに腎臓のような形をしており、茶色がかっていて、表面の構造は小粒で網目状になっています。発芽には光と寒さが必要です。発芽可能な種子は60％以下である。

染色体数

本種の染色体数は2n＝72である。

分布と生息環境

自然の中で育つ野生のベラドンナ

分布

ベラドンナの分布域は、スカンジナビア、西欧、南欧、バルカン半島から小アジアを経て、北アフリカ、イランにまで及びます。イギリス諸島で発生したものは、ほとんど原種ではないと考えられ、北アフリカで発生したものは導入されたものと考えられます。オーストリアでは、ベラドンナはすべての連邦州で一般的です。スイスでは、特に山岳地帯を中心にかなり広く普及していると考えられます。中央アルプスの西部とアルプスの南側では、低い発生率が記録されています。

場所

ベラドンナは、栄養価の高い石灰岩、斑岩、片麻岩の土壌を好む。標高1700mまでの落葉樹林や針葉樹林の伐採地、林縁、休耕地に多く生息しています。ドイツのバイエルン州とバーデン・ヴュルテンベルク州、オーストリアのチロル州とフォアアールベルク州に位置するアルゴイアルプスでは海抜1450mまで生息が確認されている。

栽培

野生のベラドンナは在庫が少なく入手が困難なため、栽培されており、栽培されたベラドンナから得られる原料は、野生のベラドンナから得られる原料よりもはるかに高品質である。

温暖な冬や安定した積雪のある地域では、手入れ次第で5年以上の使用が可能ですが、一般的には3年程度の使用となります。

ベラドンナは暑さを好み、生育期間が長い植物です。1年目に新芽が出てから種が熟し始めるまでには、栽培条件にもよりますが、125日から145日かかります。秋の霜が降りるまで成長します。

ベラドンナは、水位が地表から2m以内の、湿度の高い低地で、水と空気の透過性が高く、地表面が深く耕作可能な、軽度から中程度の肥沃な構造の土壌で栽培されます。畑や飼料作物の輪作や休耕地に置かれています。最高の先達は、冬、野菜、技術的な植物です。ベラドンナは肥料に非常によく反応するので、地域の状況に応じて形態や量を組み合わせて、元肥、播種前、トップドレッシングとして施用する。ベラドンナは通常、種子を直接地面に蒔くことで繁殖しますが、一年草の根っこを植えたり、温室で育てた新芽や地面に生えた新芽で繁殖することはあまりありません。霜が降りる可能性のある地域では根の繁殖を、より北の地域では苗の繁殖を行っています。地面への播種は、春先に2ヶ月間（0℃～2～3℃）層状にした種子で行うか、冬場に乾燥した種子で行います。播種方法は、60×60cmの列植または角植です。角刈りの場合の播種量は4kg/ha、60cmの畝間で播種する場合は8kg/haとなります。ベラドンナの手入れは、他の連作作物と同じです。

ベラドンナ農園では、中毒を防ぐために、毒であることを示す標識が立てられています。

主な工業地帯はウクライナのポルタヴァ地方です。ベラドンナは、クリミア、北コーカサス、ベラルーシ、モスクワ、ニジニ・ノヴゴロド、ノヴォシビルスク地方、ロシア極東でも栽培に成功しています。

ベラドンナの黒い伝説

ベラドンナのトロパンアルカロイドは毒として用いられ、初期の人類はこの植物から毒矢を作っていた。古代ローマでは、皇帝クラウディウスの妻アグリッピナが毒を専門とする女性ロクスタの助言を受けて毒薬として使用し、前皇后リヴィアは夫の皇帝アウグストゥスを暗殺するために使用したと噂されている。

スコットランドのマクベスは、まだスコットランド王ダンカン1世の副官の一人だった頃、休戦中にこれを使って、侵攻してきたイングランド王ハロルド・ヘアフットの部隊を毒殺し、イングランド軍が立ち往生して船に退避せざるを得なくなるほどだった。

また、1841年に誘拐されて奴隷として売られた黒人で奴隷制度廃止運動家のソロモン・ノーサップは、ベラドンナとローダナム（アヘンチンキ）の組み合わせで毒殺されたのではないかと医学史家は考えている。

ベラドンナ中毒

中毒の兆候

軽度の中毒症状（10～20分後に発生）：口や喉の乾燥感や灼熱感、嚥下や会話の困難さ、速い心拍（頻脈）。声がかすれてしまう。瞳孔が開き、光に反応しない。近距離視力の低下羞恥心、目の前でハエがちらつく。乾燥して赤くなった肌。焦燥感、時にはせん妄、幻覚。

重度の中毒では、見当識障害、激しい運動および精神的興奮、時には痙攣を起こす。体温の急激な上昇、チェイン・ストークス型の断続的な呼吸が見られる息切れ、粘膜のチアノーゼ（青くなること）、不規則な弱い脈拍、血圧の低下。呼吸中枢の麻痺や血管不全により、致命的な結果となる可能性があります。

アトロピン中毒の特異的な合併症として、栄養障害（顔、前腕、下腿の皮下組織の著しい腫れ）がある。

毒物を飲んだときの応急処置

胃洗浄後、ワセリンオイル200mlまたはタンニンの0.2～0.5％溶液200mlをチューブで投与する。急性精神病には、アミナジンを筋肉内で使用する。体温が高い場合は、頭を冷やしたり、ウェットシートで包んだりします。より具体的な治療法としては、0.05％のプロセリン溶液1～2mlを皮下に注射します。

変形例：水とカルボレンまたは過マンガン酸カリウム溶液（1：1000）で胃洗浄を行い、その後、下剤、安静、ベッドでの休息、頭を冷やす。弱い場合はカフェイン錠剤。呼吸困難では、人工呼吸、酸素吸入。

広く利用できる解毒剤があります。

アトロピン中毒の治療

積極的なデトックスの方法摂取した場合：ワセリンオイルをたっぷり塗ったチューブで胃洗浄を行い、強制利尿を行う。

解毒剤処置。急激な動揺がない昏睡状態では、1％ピロカルピン溶液1mlを繰り返し、プロセリンは0.05％溶液1mlまたは0.1％エセリン溶液1mlを繰り返し皮下に投与する。

対症療法。興奮状態の場合は、2.5％アミナジン溶液2mlを筋肉内に、1％ジメドロール溶液2mlを筋肉内に、1％プロメドロール溶液2mlを皮下に、5～10mgのジアゼパムを静脈内に投与する。重度のハイパーサーミアには、4％アミドピリン溶液10～20mlを筋肉内に投与し、頭と股間に氷嚢を置き、ウェットシートで包み、人工呼吸器で送風する。

利用

『ベラドンナの膏薬』ハンテリアン博物館（イギリス・グラスゴー）

ベラドンナの薬用については、その毒の性質が知られているため、古代の資料にはほとんど記載されていません。ベラドンナは、ペダニウス・ディオスコリデス（AD40-90年頃）が著した「De Materia Medica」に薬用植物として記載されています。中世の薬草学者の著者のみが、この薬草の詳細を記しています。ベラドンナは、15世紀後半に出版されたFox's herbalistに記載されています。しかし、それ以前の人々は、毒の原料として使用していました。魔女裁判で使われた軟膏の調合にも使われました。擦ると有効成分が血中に入って幻覚を起こし、拷問を受けた被害者は要求されたことをすべて話してしまった。また、モートルワートからは、お守りの薬を作りました。スイスの薬草学者のギャスパール・ボアンは、斑入り（ふいり）の葉を刻んで塗ると、すべての潰瘍や腫瘍、胃や肝臓の炎症が治り、同時に熱も下がると書かれています。現代の民間療法では、このような危険な薬草を使うことはありませんが、以前はベラドンナをワインやジュースで抽出したものを内服したり、様々な原因の痛みに対処するために外用したりしていました。

ベラドンナエキスをベースに作られた製剤は、眼血管の研究、胃粘膜の炎症性疾患、気管支喘息、胃炎や腎臓結石の治療に使用されます。

薬理作用

ベラドンナに含まれるアルカロイド『アトロピン』

薬局用の『ベラドンナ・チンキ』のガラス瓶（1880年代）イギリス

ホメオパシー療法における『ベラドンナの錠剤』

ベラドンナの薬理作用はアトロピンに似ています。

ベラドンナ製剤は、アセチルコリンの刺激作用を阻害し、唾液腺、胃腺、気管支腺、涙腺、汗腺の分泌を抑制し、膵臓の外部分泌機能を低下させる。消化管、胆管、胆嚢の筋緊張を低下させるが、括約筋の緊張を高める。頻脈を起こし、房室伝導を改善する。瞳孔を拡張し、眼内液の流出を妨げ、眼圧を上昇させ、宿泊麻痺を引き起こす。

適応症

ベラドンナ製剤は、胃・十二指腸潰瘍、胆石症、腹部平滑筋の痙攣、胆道・腎疝痛、徐脈、房室ブロック、痔、裂肛などに用いられる。

ベラドンナを含む医薬品は、その成分に対する過敏症、閉塞隅角緑内障、尿量減少を伴う前立腺肥大症には禁忌とされています。治療中は、自動車の運転や、集中力を高め、迅速な精神運動反応と良好な視力を必要とするその他の潜在的に危険な活動に従事する際には注意してください。

副作用及び過量投与時には、精神運動性激越、口渇、散瞳、調節障害、腸捻転、眩暈、頻脈、尿閉、眼瞼皮膚充血、羞明などが認められている。

投与形態

以下のような剤形で使用されています。

植物原料

濃厚エキス（Extractum Belladonnae spissum） - 暗褐色の濃厚な塊で、独特の匂いがあり、1.4～1.6％のアルカロイドを含む。乾燥エキス（Extractum Belladonnae siccum） - 褐色または淡褐色の粉末で、かすかな臭気、特異な味、吸湿性があり、0.7～0.8％のアルカロイドを含む。アルカロイドの含有量が少ないため、剤形を整える際には乾燥エキスを濃厚エキスの2倍の量で使用します。チンクチャー（Tinctura Belladonnae）は、緑がかったまたは赤褐色の透明な液体で、独特の匂いと苦味があります。セイヨウオトギリソウの葉（1：10）を40％のアルコールで調合したもので、アルカロイドを0.027～0.033％含む。直腸坐薬は15mgの用量である。ベラドンナ製剤は、ゼレニン錠をはじめとする多くの配合剤にも含まれています。

ベラドンナは次のような薬に使われます：硫酸アトロピン、葉の粉末、コルベラ（錠剤）、根の煎じ薬、スクラッドベル。ベラドンナは、多くの複合的な製剤にも含まれています。

薬用原料

ベラドンナの根の生薬『Belladonnae Radix』

ベラドンナの葉、草、根（Folium, Herba, Radix Belladonnae）を薬用原料として使用しています。葉は開花期に、ハーブは結実期に収穫し、45〜50℃の温度で急速に乾燥させる。適切かつ迅速に乾燥させると、原料は緑色を保ち、アルカロイドはほとんど失われません。ベラドンナの根は、通常、プランテーションが放棄されたときに収穫されます。秋に耕して洗い、地上部の器官の残骸を取り除き、縦に切って乾燥させます。乾燥葉の収穫量は8～10㌘/ha、ハーブは12～15㌘/haです。

ソ連の国家薬局方第8版によると、ベラドンナの乾燥原料に含まれるアルカロイドの総量は、葉が0.35％以上、草が0.35％以上、根が0.5％以上とされています。