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エルヴァ・ペイシャリーアは、シソ科ハッカ属の多年生・草本植物で一般的に、ハーツ・ペニーロイヤルミント(学名:''Mentha cervina'')と呼ばれる植物である。 | エルヴァ・ペイシャリーアは、シソ科ハッカ属の多年生・草本植物で一般的に、ハーツ・ペニーロイヤルミント(学名:''Mentha cervina'')と呼ばれる植物である。 | ||
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その他、リキュールのさまざまなレシピも記録されている。 | その他、リキュールのさまざまなレシピも記録されている。 | ||
ポルトガル南部のアレンテージョ地方では “ 川のミント ” を意味する「オルテラン・デ・リベイラ」(Hortelã da Ribeira)と呼ばれ、薬用と伝統的な魚料理に使用されている。 | ポルトガル南部のアレンテージョ地方では “ 川のミント ” を意味する「オルテラン・デ・リベイラ」(Hortelã da Ribeira)と呼ばれ、薬用と伝統的な魚料理に使用されている。 | ||
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ハーツ・ペニーロイヤル・ミントの生鮮や乾燥させた植物全体を煎じたものは、同じシソ科のペニーロイヤルミント(学名:''Mentha pulegium'')に似た強い香りを生み出し、民間療法として煎じ薬とされてきた。 | ハーツ・ペニーロイヤル・ミントの生鮮や乾燥させた植物全体を煎じたものは、同じシソ科のペニーロイヤルミント(学名:''Mentha pulegium'')に似た強い香りを生み出し、民間療法として煎じ薬とされてきた。 | ||
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ただし、乳幼児への服用は中毒による致命的な事になる場合もあるため、控えるべきである。 | ただし、乳幼児への服用は中毒による致命的な事になる場合もあるため、控えるべきである。 | ||
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本来、エルヴァ・ペイシャリーアは自然界に自生する野生の植物である。 | 本来、エルヴァ・ペイシャリーアは自然界に自生する野生の植物である。 | ||
人類の歴史において雑草から選択され、利用できるものが今日の香草となっている。 | 人類の歴史において雑草から選択され、利用できるものが今日の香草となっている。 | ||
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ポルトガルにおいてもイワシ料理の極めつけは日本同様にシンプルである。 | ポルトガルにおいてもイワシ料理の極めつけは日本同様にシンプルである。 | ||
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== 使用される主な淡水魚 == | == 使用される主な淡水魚 == | ||
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*'''Boga'''(学名:Pseudochondrostoma polylepis):コイ科 | *'''Boga'''(学名:Pseudochondrostoma polylepis):コイ科 | ||
*'''Tainha Fataça'''(学名:Chelon ramada):Muge | *'''Tainha Fataça'''(学名:Chelon ramada):Muge | ||
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2023年10月15日 (日) 03:51時点における最新版
ミガシュ・デ・ぺイシェ・ド・リオ(Migas de Peixe do Rio)は、ポルトガルの北東端に位置するブラガンサ県トレ・デ・モンコルヴォ(Torre de Moncorvo)の自治体であるフォス・ド・サボル(Foz do Sabor)の伝統的な郷土料理である。
歴史と地理
材料
- パン
- 川魚
- エルヴァ・ペイシャリーア
- トマト
- オリーブオイル
- タマネギ
- 鶏卵
- 塩
※上記に淡水魚の魚卵を加えたものもある。
調理
香草
エルヴァ・ペイシャリーア
この料理の特徴である香草は通称「エルヴァ・ペイシャリーア」(Erva Peixeira)と呼ばれており、直訳で “ 魚のハーブ ” を意味する。 この地域のほとんどの典型的な料理に含まれており、地元の料理では重要な役割を果たしている。
この香草は、エルヴァ・ペイシャリーアの名称のまま市販(乾燥品)されているが、知らない人々にとっては魚料理用のミックスハーブのような響きがある。 また、名物のミガシュ・デ・ぺイシェ・ド・リオを味わうために訪れた多くの人々にも料理に使われている香草が実際に何であるかは、ほとんど知られていない。
エルヴァ・ペイシャリーアは、シソ科ハッカ属の多年生・草本植物で一般的に、ハーツ・ペニーロイヤルミント(学名:Mentha cervina)と呼ばれる植物である。 ポルトガルの一部の地域では、生鮮や乾燥させた茎を含む植物全体を利用し、シチュー、スープ、サラダ、チーズ、ソースに加えて伝統的に利用してきた。 その他、リキュールのさまざまなレシピも記録されている。 ポルトガル南部のアレンテージョ地方では “ 川のミント ” を意味する「オルテラン・デ・リベイラ」(Hortelã da Ribeira)と呼ばれ、薬用と伝統的な魚料理に使用されている。
効能
ハーツ・ペニーロイヤル・ミントの生鮮や乾燥させた植物全体を煎じたものは、同じシソ科のペニーロイヤルミント(学名:Mentha pulegium)に似た強い香りを生み出し、民間療法として煎じ薬とされてきた。 医療では、防腐剤、駆風剤(腸管内にたまったガスを排出させる作用)、解熱剤、消化剤としての用途の他、呼吸器系への効果があるとされている。 ただし、乳幼児への服用は中毒による致命的な事になる場合もあるため、控えるべきである。
最新の研究では、ハーツ・ペニーロイヤル・ミントに含まれる化学成分のプレゴン、メントール、イソメントンには、抗酸化作用、抗菌作用、抗真菌作用があることが報告されている。
忌避効果
古くから食用や薬用だけでなく、この植物が放つ芳香性は農作物の害虫や家屋のネズミよけ、鳥小屋を襲う獣類や穀物の保管場所を狙う鳥類などを遠ざけるために散布して使用されてきた。 特定の害虫を忌避(きひ)する効果があり、トマト、キャベツ、レタスなどの栽培において優れたコンパニオンプランツとしても機能している。
危惧
本来、エルヴァ・ペイシャリーアは自然界に自生する野生の植物である。 人類の歴史において雑草から選択され、利用できるものが今日の香草となっている。 この “ 川魚のための雑草 ” は、日本においては植物学的に異なるが、代表的な川魚料理である「鮎の塩焼き」に添えられる “ たで酢 ” の原料で通称 “ タデ ” と呼ばれる河辺に自生するタデ科イヌタデ属のヤナギタデ(学名: Persicaria hydropiper)の存在に近く、古くは平安時代から魚の臭み消しや殺菌作用、川魚の虫下しや予防の他、民間療法などに用いられてきた経緯がある。
ただ、日本の鮎の塩焼きは、それそのものが完璧であれば完成形であり、たで酢は必ずしも必要としない。 ポルトガルにおいてもイワシ料理の極めつけは日本同様にシンプルである。
しかし、ミガシュ・デ・ぺイシェ・ド・リオは、焼き魚料理ではなく、材料となる植物は料理の上で絶対的存在であり、アイデンティティである。 その植物の生息数が急速的に減っていることが確認されている。 放置すれば、料理に不可欠で特有の香りを持つ植物が絶滅すると共にポルトガルの伝統的な郷土料理が事実上忘れ去られる可能性が危惧されている。 地域の人々は文化的遺産と考えており、この事態は憂慮すべき問題で早急に保護する必要があるとして、植木鉢や家庭菜園でも栽培できることを促している。
使用される主な淡水魚
- Barbo(学名:Barbus barbus):バーベル
- Boga(学名:Pseudochondrostoma polylepis):コイ科
- Tainha Fataça(学名:Chelon ramada):Muge
- Lucioperca(Sander lucioperca):ペルカ科の大型魚(外来種)。パイクパーチの名で知られる。