「ビーフェ・デ・タルタルーガ」の版間の差分
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− | '''ビーフェ・デ・タルタルーガ''' | + | '''ビーフェ・デ・タルタルーガ'''(Bife de Tartaruga)は、大西洋の中央、アフリカの北西に位置する群島で構成されるカーボベルデ共和国の伝統料理で主にサンティアゴ島の代表的な料理として知られる。 |
+ | == 概要 == | ||
+ | ポルトガル語で、ビーフェ(Bife)は、 “ 肉の切り身 ” 、タルタルーガ(Tartaruga)は “ カメ ” を意味する。 | ||
+ | この料理は、アオウミガメの肉を適宜に切り、塩、唐辛子、ニンニク、白ワインで味つけをし、1時間ほどマリネした後、カットした玉ねぎとマリネしたカメ肉を油で強火で炒めたものである。 | ||
+ | 一般的には、白米や茹でたキャッサバとともに供される。 | ||
+ | 炒めるために使う油は、カメの脂肪、またはバターやオリーブオイルでもよい。 | ||
+ | カーボベルデ政府は、1987年の政令法でウミガメ漁は営巣(えいそう)期および繁殖期に限り禁止とし、島民の伝統文化とウミガメは共存してきたが、2002年に多国間条約である「生物の多様性に関する条約」に調印したことを皮切りに、徐々にウミガメ漁を禁止する流れとなり、2018年には国策として強固な体制となったため、もはや公に食べることはできない幻の料理となった。 | ||
+ | == カーボベルデのウミガメの歴史 == | ||
+ | [[File:Location of Cape Verde.png|thumb|right|250px|カーボベルデの地図]] | ||
+ | [[File:Chelonia mydas - Green Sea Turtle.png|thumb|right|250px|アオウミガメ]] | ||
+ | カーボベルデの全ての爬虫類のうち、この諸島に生息する唯一の海棲爬虫類(かいせいはちゅうるい)はウミガメである。 | ||
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+ | ポルトガル王室に仕えたベネチアの商人で航海士であったアルヴィーゼ・ダ・カダモスト(Alvise de Cadamosto:1432年頃 - 1488年7月18日)は、アフリカの西海岸を探検し、カーボベルデの島々を発見したことで知られている。 | ||
+ | 彼は、1456年にサンティアゴ島で、カーボベルデの島々にカメがいることを初めて記録した。 | ||
+ | 彼はカーボベルデがウミガメの宝庫であることを記し、現在のバン・ダルガン国立公園があるアルギム湾のウミガメと比較すると、サンティアゴ島の方が極めて大きいと述べている。 | ||
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+ | 1456年以来、カーボベルデはウミガメについて多く言及されてきた島である。 | ||
+ | 味は美味として知られ、産卵期には大規模な漁業の対象となり、ハンセン病の治療にも使用された。 | ||
+ | フランス国王のルイ11世(Louis XI:1423年7月3日 - 1483年8月30日)自身もこのような流行り病を恐れて、治療法を研究するためにカーボベルデに使者を派遣したと考えられている。 | ||
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+ | こうした理由から、18世紀になっても物資や食料をアメリカ大陸の植民地へ運ぶ船によって、カーボベルデでウミガメが捕獲された。 | ||
+ | 1945年、マリオ・セカ(Mário Seca)は、*テストゥド・ミイダス(''Testudo mydas'')という種が、カーボベルデのボア・ビスタ島では最も一般的なカメで、雨季は夜間に産卵のために砂浜を上ってくる時期であると説明している。 | ||
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+ | ※テストゥド・ミイダス(''Testudo mydas'')という呼び名は、1758年に生物学者である[[カール・フォン・リンネ]]が命名したもので、現在のアオウミガメ(学名:''Chelonia mydas''/ケロニア・ミイダス)と同種である。 | ||
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+ | == 航海糧食 == | ||
+ | ウミガメの卵、肉、脂肪、血液、甲羅は、諸島に上陸した船乗りたちに常に高く評価されてきた。 | ||
+ | これらの海産爬虫類は抵抗力があるため、長い航海の間、船上で生かしておくことができ、解体した肉を塩漬けにすることで保存期間をさらに長くすることができた。 | ||
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+ | == 治療薬 == | ||
+ | 当時の航海士の記録には、ウミガメは食料としてだけでなく、治療薬としても用いられた。 | ||
+ | 黄熱病、ハンセン病、梅毒、喘息、腸内寄生虫などの疾患は、ウミガメの血、肉、脂肪で治ると信じられていたことが記されている。 | ||
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+ | == 貿易 == | ||
+ | ウミガメは、カーボベルデを通過する船乗りたちによって常に自由に捕獲され、貴重な食料として利用されていた。 | ||
+ | 諸島が開拓された後、カメは通貨として使われ、諸島の統治者と諸島を頻繁に訪れる他国(スペイン、オランダ、イギリス、フランス)の船員との間で取引されるようになった。 | ||
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+ | == 第二次世界大戦中の飢餓の回避 == | ||
+ | カーボベルデは、ヴェルデ岬の西の沖合いの島々を領土とする島国で、国名はヴェルデ岬に由来する。 | ||
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+ | ヴェルデ岬で獲れたウミガメや海鳥は、第二次世界大戦中に起きた食糧難や島々の孤立を余儀なくされた時期に、多くの人々を飢えから救ったことで知られている。 | ||
+ | カーボベルデに属するサン・ニコラウ島やサント・アンタン島の記録によれば、公海(国の領海外水域)から船が到来し、ウミガメの数に応じて赤旗や白旗を掲げたとされる。 | ||
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+ | == ウミガメ漁の禁止 == | ||
+ | カーボベルデ政府は、2002年12月に「生物の多様性に関する条約」(CBD:Convention on Biological Diversity)に調印し、2005年には「ワシントン条約:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(CITES:Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)に批准して締約国となり、ウミガメ漁を全面的に禁止した。 | ||
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+ | 2018年、政府はウミガメの保護に特化した国の法的枠組みを決定し、ウミガメ(カメの年齢および全ての種のオスとメス)の輸送、上陸、捕獲、拘束、屠殺、消費、個体の生死を問わず、剥製、食肉、その他の部位の購入、所有および譲渡、ウミガメを使った製品の輸出など、これらの種の保護を脅かす可能性のある全ての活動を犯罪とする法令第1号を同年5月21日付で公布した。 | ||
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+ | 科学的な研究目的であっても事前の許可がない場合、卵の採取などは許されない。 | ||
+ | また、消費、売買、特に営巣・繁殖期間中のウミガメへの妨害、虐待、たとえ巣が空であっても破壊や破損は対称となる。 | ||
+ | ウミガメの甲羅やウロコを使った工芸品の製造、営巣付近の海岸での自動車の運転、および*1ルクスを超える光源の使用も禁じられている。 | ||
+ | これらに違反した場合、カーボベルデの通貨(カーボベルデ・エスクード:Escudo Cabo Verdiano)で、30,000ECVの罰金、または3年以下の懲役刑に科せられる。<br> | ||
+ | <small>※ルクス(単位記号:lx)は、1平方メートルを1ルーメン(単位記号:lm)の光束が均等に照らす明るさの単位。</small> | ||
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+ | 現在、同諸島の海域に営巣、あるいは回遊路とする全ての種は、国際自然保護連合(IUCN)で「絶滅危惧II類」(Vulnerable species)、または「絶滅危惧IB類」(Endangered)に指定されている。 | ||
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+ | == 関連項目 == | ||
+ | *[[カメ料理一覧]] | ||
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2023年9月30日 (土) 15:46時点における最新版
ビーフェ・デ・タルタルーガ(Bife de Tartaruga)は、大西洋の中央、アフリカの北西に位置する群島で構成されるカーボベルデ共和国の伝統料理で主にサンティアゴ島の代表的な料理として知られる。
概要
ポルトガル語で、ビーフェ(Bife)は、 “ 肉の切り身 ” 、タルタルーガ(Tartaruga)は “ カメ ” を意味する。 この料理は、アオウミガメの肉を適宜に切り、塩、唐辛子、ニンニク、白ワインで味つけをし、1時間ほどマリネした後、カットした玉ねぎとマリネしたカメ肉を油で強火で炒めたものである。 一般的には、白米や茹でたキャッサバとともに供される。 炒めるために使う油は、カメの脂肪、またはバターやオリーブオイルでもよい。
カーボベルデ政府は、1987年の政令法でウミガメ漁は営巣(えいそう)期および繁殖期に限り禁止とし、島民の伝統文化とウミガメは共存してきたが、2002年に多国間条約である「生物の多様性に関する条約」に調印したことを皮切りに、徐々にウミガメ漁を禁止する流れとなり、2018年には国策として強固な体制となったため、もはや公に食べることはできない幻の料理となった。
カーボベルデのウミガメの歴史
カーボベルデの全ての爬虫類のうち、この諸島に生息する唯一の海棲爬虫類(かいせいはちゅうるい)はウミガメである。
ポルトガル王室に仕えたベネチアの商人で航海士であったアルヴィーゼ・ダ・カダモスト(Alvise de Cadamosto:1432年頃 - 1488年7月18日)は、アフリカの西海岸を探検し、カーボベルデの島々を発見したことで知られている。 彼は、1456年にサンティアゴ島で、カーボベルデの島々にカメがいることを初めて記録した。 彼はカーボベルデがウミガメの宝庫であることを記し、現在のバン・ダルガン国立公園があるアルギム湾のウミガメと比較すると、サンティアゴ島の方が極めて大きいと述べている。
1456年以来、カーボベルデはウミガメについて多く言及されてきた島である。 味は美味として知られ、産卵期には大規模な漁業の対象となり、ハンセン病の治療にも使用された。 フランス国王のルイ11世(Louis XI:1423年7月3日 - 1483年8月30日)自身もこのような流行り病を恐れて、治療法を研究するためにカーボベルデに使者を派遣したと考えられている。
こうした理由から、18世紀になっても物資や食料をアメリカ大陸の植民地へ運ぶ船によって、カーボベルデでウミガメが捕獲された。 1945年、マリオ・セカ(Mário Seca)は、*テストゥド・ミイダス(Testudo mydas)という種が、カーボベルデのボア・ビスタ島では最も一般的なカメで、雨季は夜間に産卵のために砂浜を上ってくる時期であると説明している。
※テストゥド・ミイダス(Testudo mydas)という呼び名は、1758年に生物学者であるカール・フォン・リンネが命名したもので、現在のアオウミガメ(学名:Chelonia mydas/ケロニア・ミイダス)と同種である。
航海糧食
ウミガメの卵、肉、脂肪、血液、甲羅は、諸島に上陸した船乗りたちに常に高く評価されてきた。 これらの海産爬虫類は抵抗力があるため、長い航海の間、船上で生かしておくことができ、解体した肉を塩漬けにすることで保存期間をさらに長くすることができた。
治療薬
当時の航海士の記録には、ウミガメは食料としてだけでなく、治療薬としても用いられた。 黄熱病、ハンセン病、梅毒、喘息、腸内寄生虫などの疾患は、ウミガメの血、肉、脂肪で治ると信じられていたことが記されている。
貿易
ウミガメは、カーボベルデを通過する船乗りたちによって常に自由に捕獲され、貴重な食料として利用されていた。 諸島が開拓された後、カメは通貨として使われ、諸島の統治者と諸島を頻繁に訪れる他国(スペイン、オランダ、イギリス、フランス)の船員との間で取引されるようになった。
第二次世界大戦中の飢餓の回避
カーボベルデは、ヴェルデ岬の西の沖合いの島々を領土とする島国で、国名はヴェルデ岬に由来する。
ヴェルデ岬で獲れたウミガメや海鳥は、第二次世界大戦中に起きた食糧難や島々の孤立を余儀なくされた時期に、多くの人々を飢えから救ったことで知られている。 カーボベルデに属するサン・ニコラウ島やサント・アンタン島の記録によれば、公海(国の領海外水域)から船が到来し、ウミガメの数に応じて赤旗や白旗を掲げたとされる。
ウミガメ漁の禁止
カーボベルデ政府は、2002年12月に「生物の多様性に関する条約」(CBD:Convention on Biological Diversity)に調印し、2005年には「ワシントン条約:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(CITES:Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)に批准して締約国となり、ウミガメ漁を全面的に禁止した。
2018年、政府はウミガメの保護に特化した国の法的枠組みを決定し、ウミガメ(カメの年齢および全ての種のオスとメス)の輸送、上陸、捕獲、拘束、屠殺、消費、個体の生死を問わず、剥製、食肉、その他の部位の購入、所有および譲渡、ウミガメを使った製品の輸出など、これらの種の保護を脅かす可能性のある全ての活動を犯罪とする法令第1号を同年5月21日付で公布した。
科学的な研究目的であっても事前の許可がない場合、卵の採取などは許されない。
また、消費、売買、特に営巣・繁殖期間中のウミガメへの妨害、虐待、たとえ巣が空であっても破壊や破損は対称となる。
ウミガメの甲羅やウロコを使った工芸品の製造、営巣付近の海岸での自動車の運転、および*1ルクスを超える光源の使用も禁じられている。
これらに違反した場合、カーボベルデの通貨(カーボベルデ・エスクード:Escudo Cabo Verdiano)で、30,000ECVの罰金、または3年以下の懲役刑に科せられる。
※ルクス(単位記号:lx)は、1平方メートルを1ルーメン(単位記号:lm)の光束が均等に照らす明るさの単位。
現在、同諸島の海域に営巣、あるいは回遊路とする全ての種は、国際自然保護連合(IUCN)で「絶滅危惧II類」(Vulnerable species)、または「絶滅危惧IB類」(Endangered)に指定されている。