メアリー・ランドルフ

メアリー・ランドルフ

メアリー・ランドルフ（Mary Randolph：1762年8月9日 - 1828年1月23日）は、アメリカの作家で、19世紀の最も影響力のある家事・料理本の一つである『The Virginia House-Wife; Or, Methodical Cook』（1824年）の執筆で知られる。
彼女は、後にアーリントン国立墓地として知られるようになる場所に埋葬された最初の人物として知られている。

初期の人生

メアリー・ランドルフは、1762年8月9日、バージニア州チェスターフィールド郡のアンプティル・プランテーションで生まれた。両親はトーマス・マン・ランドルフ・シニア（1741-1794）とアン・カリー・ランドルフ（1745-1789）。ランドルフ家は、18世紀のバージニア州で最も裕福で政治的にも重要な家系のひとつであった。

メアリーの父親は幼い頃に孤児となり、遠い従兄弟であるトーマス・ジェファーソンの両親に育てられた。彼女の父親は、バージニア州の貴族院、1775年と1776年の独立戦争大会、バージニア州議会にも参加した。アン・ケーリー・ランドルフは、バージニア州の重要なプランターであるアーチボルド・ケーリーの娘であった。アンの祖母であるジェーン・ボリング・ランドルフは、1743年に料理本の原稿を完成させ、それは娘のジェーン・ランドルフ・ウォークに受け継がれた。また、アン・カリー・ランドルフは、母メアリー（ジョン・ボリングの孫娘、ジェーン・ロルフの曾孫娘）を通じて、ポカホンタスとジョン・ロルフの子孫でもある。

メアリー・ランドルフは、トーマスとアンの13人の子供の中で一番の長女である。弟のトーマス・マン・ランドルフ・ジュニアは、マーサ・ジェファーソン（トーマス・ジェファーソンの娘）と結婚し、ヴァージニア州の下院議員や知事になった。姉のヴァージニア・ランドルフ・ケーリーは著名なエッセイストであり、もう一人のハリエットは米国領事となったリチャード・シッペイ・ハックリーと結婚し、スペインのカディスに住んでいた。ランドルフの料理本に掲載されているスペイン料理のレシピは、おそらく彼女が元になっている。彼女の妹、アン・カリー・"ナンシー"・ランドルフは、Gouverneur Morrisの妻であり、Gouverneur Morris Jr.の母親でもある。アンは、義兄であり遠縁の従兄弟であるリチャード・ランドルフ（Richard Randolph of Bizarre）のスキャンダルに登場し、「ナンシー（アン）・ランドルフが産んだとされる子供を重罪で殺害した」という責任を問われた。

ランドルフは、バージニア州グーチランド郡のツッカホー・プランテーションで育った。ランドルフ家はプロの家庭教師を雇って子供を教えることで知られていた。メアリーは家事の技術に加えて、読み書きや算数を学んだと思われる。

結婚

デビッド・ミード・ランドルフ（1807年）

1780年12月、18歳のメアリー・ランドルフは、1つ違いのいとこである独立戦争の将校でタバコのプランターを経営していたデビッド・ミード・ランドルフ（1760-1830）と結婚した。新婚の二人は、バージニア州チェスターフィールド郡にあったランドルフ家の広大な敷地の一部である750エーカーのプランテーション、プレスキールに住んだ。メアリーとデビッドは結婚生活の間に8人の子供をもうけ、そのうち4人は成人するまで生き延びた。

1795年頃、ジョージ・ワシントン大統領はデビッド・ランドルフをバージニア州の米国連邦保安官に任命し、1798年には一家はリッチモンドに移り、「モルダヴィア」（メアリーの愛称であるモリーとデビッドを組み合わせたもの）と呼ばれる家を建てました。メアリー・ランドルフは、リッチモンドでは有名なホステスだった。

デイヴィッド・ランドルフは連邦主義者で、2番目のいとこであるトーマス・ジェファーソンを公然と批判していた。ジェファーソンが大統領に選出された後、彼はデビッド・ランドルフを罷免し、一家の運勢は悪化した。

寄宿舎の開設

1807年、メアリー・ランドルフはリッチモンドに寄宿舎を開設した。1808年3月、地方紙のThe Richmond Virginia Gazetteに広告『ランドルフ夫人は紳士淑女のためにキャリー通りに下宿を設立しました 快適な部屋と、数頭の馬を収容できる馬小屋を備えています。』が掲載された。
1810年の国勢調査では、デビッドはイギリスにいて、メアリーは9人の奴隷を含むリッチモンドの世帯主となっている。

1815年5月、ハリオット・ピンクニー・ホリーはランドルフ家の寄宿舎に数日滞在し、ランドルフ家の冷蔵庫について日記に記している。4×3.5フィートの箱の中に、4インチ小さい箱がもう一つ入っていた。その間には粉炭が詰められ、冷蔵庫には毎日氷が入れられ、バターや肉などの食品を冷やしていた。ランドルフは、1825年の第2版の料理本に、冷蔵庫とバスタブのスケッチを載せている。数年後、ある作家が冷蔵庫を発明したのはランドルフであり、彼女のデザインを盗んで特許を取得したのは、彼女の下宿に泊まったヤンキーであると主張したが、これは誤りである。

1819年までにランドルフ夫妻は寄宿舎を手放し、息子のウィリアム・ビバリー・ランドルフと一緒に暮らすためにワシントンに移った。ワシントン滞在中、メアリー・ランドルフは料理本を完成させ、1824年に『The Virginia House-Wife』を出版した。

The Virginia House-Wife

The Virginia House-Wife（1824年）

The Virginia House-Wifeの表紙カバー（1824年）

ランドルフの影響力のあるハウスキーピング・ブック『The Virginia House-Wife』は1824年に初版が出版され、南北戦争が始まるまでに少なくとも19回は再版された。この本は225ページの長さで、約500のレシピが含まれており、ランドルフの「大規模な施設の管理人としての実践的な経験と、おそらく家族の収入をさらに増やすことを願って」生まれたものだった。The Virginia House-Wife』はアメリカ初の地域限定の料理本とされている。

歴史家のシンシア・A・キアーナーによれば、「ランドルフは南部の読者のために、南部の、特にヴァージニアのモデルを提示した。時折、南部特有の食べ物について説明していることから、彼女は自分の地域以外の読者を想定していたと思われるが、（ランドルフの作品は）読者の大半を占める南部の農村部の女性たちにアピールしていた」と述べている。

ランドルフのレシピは、アフリカやネイティブ・アメリカン、ヨーロッパの料理の影響を受けた料理にバージニアの食材を使うという、バージニアならではのスタイルである。オクラ、サツマイモ、ビスケット、フライドチキン、子豚のバーベキュー、レモネードなど、南部の伝統的な料理のレシピが掲載されている。ヨーロッパの影響を受けたレシピとしては、ガスパチョ、ロパ・ビエハ、ポレンタ、マカロニなどがあります。『The Virginia House-Wife』には6つのカレーレシピが掲載されていますが、これはアメリカで初めて出版されたカレーレシピであり、この地域ではすでにカレーが人気の調味料であったことを示しています。アメリカの他の地域の名物料理には、"Dough Nuts - A Yankee Cake "と題されたレシピが含まれている。また、アメリカ人作家による初のアイスクリームのレシピも掲載されています。

従来の常識では、初期のアメリカ人は野菜をほとんど食べず、食べたとしても加熱しすぎていたと言われている。『The Virginia House-Wife』には、40種類の野菜と17種類のアロマティック・ハーブのレシピが掲載されている。このような食生活の多様性は、ワシントンの市場で売られている野菜についてのトーマス・ジェファーソンのメモからも確認できます。ランドルフは、アスパラガスやホウレンソウの調理時間を短くすることを特に推奨していたが、カレン・ヘスは、19世紀半ばに缶詰が一般的な保存方法になるまで、加熱しすぎることは一般的ではなかったと指摘している。

ランドルフは料理に精通していたが、彼女の台所での労働の大半は黒人女性が担っていた[20]。ランドルフと彼女たちの関係を推測することはできないが、コロニアル・ウィリアムズバーグのメリッサ・ブランクは、"奴隷の料理人がメアリーの料理の作り方に大きな影響を与えていた証拠 "と見ている。1984年に出版された『The Virginia housewife』のカレン・ヘスの序文には、「黒人の存在は、ニューオリンズや西インド諸島の料理に比べて、ヴァージニアの料理では限りなく微妙だったが、...文化はコミュニティ全体の味覚を整えるのに十分なほど染み込んでいた」と記されている。ヘスは、黒人料理人がアメリカ大陸に持ち込んだ作物として、ガンボ、ナス、ソラマメ、ヤムイモ、そしておそらくトマトを挙げている。また、西インド諸島では、スペイン料理、フランス料理、クレオール料理、南部料理の間につながりがあったとも述べています。

『The Virginia House-Wife』は家事全般のガイドであり、レシピのほか、石鹸、でんぷん、ブラッキング、コロンなどの作り方も紹介されていた。

晩年

アーリントン国立墓地にあるメアリー・ランドルフの墓

アーリントン国立墓地のアーリントンハウス、ロバート・E・リー記念館にあるメアリー・ランドルフの墓に設置されたマーカー。

ランドルフは晩年、海軍に所属していた時に障害を負った息子のバーウェル・スターク・ランドルフの世話をしていた。ランドルフは、後にアーリントン国立墓地となる場所に埋葬された最初の人物として知られており、彼女のいとこであるジョージ・ワシントン・パーク・カスティス（ジョージ・ワシントンの継息子で、ロバート・E・リーの妻メアリー・カスティスの父）の家に埋葬された。

影響力

『The Virginia House-Wife』と似たような南部の料理本は、その後数年間に渡って出版された。その中でも特に重要なのは、『Lettice BryanのThe Kentucky Housewife』（1839年）と『Sarah RutledgeのThe Carolina Housewife』（1847年）である。

1982年、ジェームズ・ビアードは『リッチモンド・ニュース・リーダー』紙でメアリーを「先見の明のある料理の天才」と称賛した。
特にトマトの使い方に感銘を受けたようで、「トマトのことを考える人がほとんどいなかった時代に、彼女はトマトケチャップ、トマトマーマレード、トマトソースの料理レシピを提供した」と書いている。
料理史家のアンドリュー・F・スミス氏によると、ランドルフの幅広いトマトレシピは「その後30年間のトマト料理の基準となった 」という。

レストランのホセ・アンドレスは、2014年に『ナショナル・ジオグラフィック』に寄稿したエッセイの中で、影響を受けた人物としてメアリー・ランドルフを挙げている。アンドレスは自身の「America Eats Tavern」でランドルフのガスパチョを提供しており、ランドルフの「ガスパチョのレシピは、この国が文化のるつぼであるという概念がどれほど昔からあったかを示している」と考えている。

栄誉

• 1999年、バージニア州は、チェスターフィールド郡の彼女の出生地近くに、彼女に敬意を表して歴史的な標識を設置しました。
• 2009年、バージニア州図書館の「バージニアの歴史上の女性」の一人として表彰された。