「アイスランドの地衣類」の版間の差分
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2024年2月28日 (水) 20:40時点における版
アイスランドの地衣類(アイスランド語:Fléttur /日本語:ちいるい)は、アイスランドに自生する地衣類である。 地衣類は菌類の一種で、藻類(主に緑藻とシアノバクテリア)と必ず共生する生態系をもつ複合体である。
概要
フリィエットゥル(Fléttur)とは、アイスランド語で地衣類を指す。
この言葉は、1906年に出版された植物学者のヘルガ ・ヨンソン(Helga Jónssonar:1867~1925年)の著書『植物の構造と生態』(Bygging og Líf Plantna)で初めて登場し、定義されたことで用いられている。
それまで一般の人々は地衣類と蘚類(せんるい)に分類されるコケ類を区別していなかったため、これらを総称して “ コケ ” (モゥシ:Mosi)と呼んでいた。
これは地衣類のハナゴケ(Hreindýramosi)やミヤマカラクサゴケ(Litunarmosi)、蘚類のミズゴケ属(Barnamosi)などの一般名として今日も残っている。
フリィエットゥルという呼称は植物(菌類界)の分類学上で用いられるが、一般的には “ 三つ編み ”(Fléttur)を意味する言葉でもある。 一般の人々には、 “ 山草 ”(フィヤトラグラッサ:Fjallagrasa)、または単に “ 草 ”(グラッサ:Grasa) と呼ばれることが多い。
歴史
伝統的な利用と有用性
1880年に出版された園芸家のジョン・ヨンソン(Jón Jónsson)による資料収集および著書『さまざまな著者によるアイスランドのハーブの有用性に関する小さな論文』(Lítil ritgjörð um nytsemi nokkurra íslenzkra jurta eptir ýmsa höfunda)は、アイスランドに生息する薬草や地衣類の治癒力や加工についてをまとめた古い手引書として、今日でも人々に知られており、原板はハーバード大学に保管されている。
本書で彼は「コケの一種」(Mosategund)として地衣類を紹介している。
“ 腸を強化し、収縮させ、柔らかくし、栄養を与え、血液を浄化し、寄生虫を殺します。したがって、山草は、肺炎や咳、下痢、赤痢、過酷な生活と内臓疾患、寄生虫、膨満感、食欲不振、エネルギー不足に効果があります。”
※西部フィヨルド地方のパトレクスフィヨルズゥルには、彼が著した植物類を現代的な方法で図解で展示した施設「創造の家」(House of Creativity)がある。
民間療法
草旅行とルール
アイスランドではキノコ狩りと同様に地衣類狩りのようなものがある。 これは文化の一つで、 “ 草旅行 ” (Grasaferðir)と呼ばれる。 家族ではピクニック、仲間内や集落の人々などで行われる遠足、ハイキングを兼ねるレジャーと食糧確保という重要な目的を包括し、次のシーズンまで備蓄するために伝統的に行われてきた。 地衣類は、極めて身近な場所や人々の住んでいない海岸、平原、荒野、山麓などを含めて全国に広く分布しているが、採取するサイズに達するまで年月を要するため、無作為な採取や一度採取した場所で再び採取することは御法度である。
採取シーズン
草旅行は夏に行われる。
日和は、雨が降った後や翌日、または濃霧などで朝露などが発生した後の方が、地衣類の表面の汚れが綺麗になり、下処理の手間が少なくなるため、適しているとされる。
団体での草旅行は事前に日取りを決めて行うため、ベストな日和を狙うことは難しく、タイミング的に当たった場合は “ 運が良い ” という位のものである。
どちらにせよ、成果を重要視する。
オフシーズン
採取シーズンを過ぎた冬季でも霜や雪によって自然乾燥した状態で見られることもあり、それ以外にも雪を掘り起こしたりすれば採取は可能であるが、これらは野生動物が越冬する上での重要なエサとなる。
極寒の中、地表の地衣類、樹木や岩肌の地衣類を捕食して越冬するトナカイは、アイスランドの人々にとって伝統的で大切な食材である。
地衣類
チャシブゴケ目
※アイスランドの代表的な地衣類として海外では「アイスランド・モス」(Iceland Moss)の名で知られている「エイランタイ」は、欧州医薬品庁の植物性医薬品委員会(HMPC)では、アイスランドで伝統的に利用されているメディカルハーブの分野として認知し、科学的に含まれる成分や薬理作用に基づいて、一時的な食欲不振の改善、口や喉の炎症やそれに伴う空咳の治療、鎮静剤としての効果を認定している。
ロウソクゴケ目
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
---|---|---|---|
(Veggjaglæða) |
ゴールデン・シールド・ライケン (Xanthoria parietina) |
ロウソクゴケ科オオロウソクゴケ属。黄色い色素には、β-カロチンやトマトのリコピンと同じ働きをする化学物質のクロセチンが含まれている。 |
蘚類
画像 | 現地名 | 一般名(学名) | |
---|---|---|---|
(Barnamosar) (Barnamosi) |
ミズゴケ属 (Genus Sphagnum) |
ミズゴケ目ミズゴケ科ミズゴケ属。アイスランド語で “ 赤ちゃんのコケ ” の意味。乾燥したものは非常に高い吸水性をもつため、赤ん坊のオシメ代わりとしてベビーベットに敷いて利用された。 |
※地衣類ではなく、蘚類(せんるい)に分類されるが、それ以前に “ コケ ” (Mosi)として同様に利用されていたものとして表記した。ミズゴケ類は、欧米では負傷兵の包帯・止血に使われたこともある。
ギャラリー
- フィヤトラグラッサグロイトゥル:地衣類のお粥。
- フィヤトラグラッサブロィズ:地衣類を生地に混ぜたパン。
- フィヤトラグラッサミョーク:地衣類のミルク煮。
- フィヤトラグラッサテー:地衣類のハーブティー。野草類、シラカバなども加えられる場合もある。
- フィヤトラグラッサ:咳止めシロップ。
- :ジャム。
- フィヤトラグラッサブロウズモール:羊のブラッドソーセージに地衣類を加えたもの。
- フィヤトラグラッサロストゥル:地衣類を混ぜたチーズ。地衣類は古くからチーズ作りに使われてきた。
- フィヤトラグラッサシュナップス:地衣類の薬膳酒。アイスランドの蒸留酒は国内のビールより歴史が古い。
- フィヤトラグラッササルト:地衣類を加えた天然塩。古い時代は塩が不足していたため、比較的新しい。調理用の他、洗顔のスクラブやボディケア用の塩もある。
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- Icelandic Cuisine -(Fjallagrasaostur)Hvammshlíðarostur.png
フヴァンシュリザールロストゥル
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- Icelandic Alcoholic Drinks - Fjallagrasaschnapps.png
フィヤトラグラッサシュナップス
- Icelandic Salt - Fjallagrasasalt.png
フィヤトラグラッササルト